景気のいい国でポピュリズムへの傾斜が強まる矛盾

オランダ経済はユーロ圏随一の安定感

菅野 泰夫
経済が好調な国ほどポピュリズムに賛同する傾向がある…

 旧知の英国人に突然、“実は昨年のEU(欧州連合)離脱の国民投票のときにLeave(離脱)に投票したの”とカミングアウトされ驚いた。国民投票からすでに9カ月。「何を今さら」と思ったが、外国人として英国に住む筆者家族に対して「申し訳ない」という気持ちが抑えられなかったようだ。その知人いわく、“離脱に投票したことは、職場でも誰にも言えなかった”そうで、勇気を振り絞っての告白だったのかもしれない。

 ブレグジットやトランプ米大統領の誕生で、ポピュリズムの台頭が世界的に注目されている。特に最近の傾向として、経済が好調な国ほど、「有権者が主要政党に背を向けてポピュリズムに賛同する」といわれている。知人は “国民投票後も英国の景気が良いというけど、給料も上がらず、家も買えない、NHS(無料国民医療制度)にいつ行っても長い列”と不満が絶えない。

 ステレオタイプで諸悪の根源を“移民が増えたから”とかたくなに信じているが、本当にそれだけだろうか。景気が悪い国であれば、現政権への不満が強まるのでポピュリズムへの傾倒は理解できるが、景気の良い国でこの矛盾(パラドックス)が起きる原因を多くのエコノミストが必死に解明しようとしている。

 パラドックスの原因の一つは、非正規雇用者の増加だろう。オランダではウィルダース党首率いる(ポピュリズム政党の)自由党の台頭が注目された。同国では金融危機以降、急激に非正規雇用が増えて今や4人に1人(若年層にいたっては半分以上)を占める。名目の失業率は下がっているが、職務保障も賃金も低い労働者が年々増加する構図は、どこかの国と重なるものがある。

 オランダの低中所得層の多くは、この5年間生活水準の向上を実感できず、堅調な経済回復の認識を共有できていないという。そこに失業手当や医療支出削減などの緊縮財政が追い打ちをかけ、標準的な勤労世帯は生活水準維持に苦心しているのが実態とされる。ルッテ首相が推進した改革で2016年末の失業率は5年来の低水準となる5.4%。経済成長率は2.3%……。ユーロ圏随一の安定感を誇るオランダの話である。

 オランダや4~5月に大統領選を控えたフランスの場合、実質賃金低下を移民増加に帰結させるシナリオは、移民が集中する大都市圏を除く地方部には当てはまらない印象を受ける。むしろ、非正規雇用増が所得を押し下げていることを移民問題にすり替えている印象すら受ける。

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