イビデン、欧州の排ガス規制強化で商機が拡大

東海を代表するブルーチップの雄

堀川 美行
ICパッケージ、インテル向けパッケージは「ウィンドウズ7」向けに引き合いが活発

東海地域を代表するブルーチップであるイビデンが復活へ向けて動き出した。

第1四半期の営業利益は前年同期比約7割減の32億円。会社側では期初時点で収支均衡のレベルと考えていたが、それを大きく上回った。上期の営業利益は65億円に増額修正された。

イビデンは電子関連事業やセラミック事業を軸に成長を続けてきた。2007年3月期に483億円という過去最高の最終利益をたたき出したが、そのわずか2年後の09年3月期は87億円の最終赤字に転落してしまう。

世界的なパソコン販売台数の急減により、インテル向けのパッケージ基板が大きな打撃を受けたがその主要因だ。さらに追い打ちをかけたのが、自動車市場の激変である。自動車向けを主体とするセラミック事業の前期売上高は約4割減と電子関連以上の後退を余儀なくされた。

中核を担っているディーゼル車向け排ガス浄化装置(DPF) は、ディーゼル車の排気ガスに含まれる黒煙を捕集する自動車部品。同分野には海外メーカーも参入しているが、イビデンや日本ガイシなどの日本メーカーが優位に立っている。

排ガス浄化装置(DPF)はディーゼル車の排気ガスに含まれる黒煙を捕集する自動車部品

欧州ではディーゼル車の環境負荷の低さが評価されてきた。DPFの主戦場もディーゼル車が普及する欧州市場だが、最近は北米のピックアップトラックやSUV(スポーツ用多目的車)など大型車でも採用されることが多くなっていた。ところが、ビッグスリーの経営危機を背景に膨らみかけた需要が一気に冷え込んだ。最終的には中心地である欧州にも悪影響が及んだ。

10年3月期を迎えるにあたって、優良企業グループからの陥落も懸念された。しかし、実際、日を追うごとに鮮明になってきたのはむしろ同社の底力だ。

パッケージ基板は低価格のノートパソコン向け中心に受注が回復している。低価格品向けであるため、パーケージ基板の単価も低くなるが、インテルのMPU(超小型演算処理地装置)の世代交代で、今年10月ごろからは利益率の高い次世代基板の出荷が始まる。マイクロソフトの新しい基本ソフト「ウィンドウズ7」の登場によって、パソコンの買い替えが始まれば、パッケージ基板の回復はさらに早まることが予想される。

電子関連に比べれば、セラミックの回復はまだ鈍い。ただ、カギを握るDPFは正念場である今期をくぐり抜けると視界が一気に広がる。10年から欧州で新排ガス規制「ユーロ5」が開始されるためだ。移行期間を経て11年1月からは全面的に規制が適用される。

従来は対象外だった小型車も規制の対象になるのが注目点だ。問題は大型、中型車向けよりも小型車向けの単価が低いことだが、イビデンは専用の新製品の投入などで採算を確保していく考えだ。

自家発電が強みに

不況下でも中期的な成長に向けての投資は惜しまない。イビデンは4月から14の社長直轄プロジェクトを立ち上げた。「研究開発費を厚くしてプロジェクトにつぎ込む」と竹中裕紀社長も意気込むその計画の中身は、新製品開発の強化と生産性の改善だ。今期の設備投資計画は前期比半減の300億円だが、研究開発費は133億円(前期115億円)に増やした。

新製品開発は「足の短いものと長いもの」に分かれている。今後数年の収益回復を担うパッケージ基板やDPF新製品に加え、近未来の経営を担う電気自動車、バイオ関連などさまざまなテーマが議論、研究されている。

生産性改善は今期業績を押し上げる要因のひとつだ。たとえば国内と海外で製造するプリント配線板は海外工場の習熟度を引き上げることでコストを削減している。「1分かかっていた工程を30秒にするだけで、従来よりも効率化が2倍になる。そういった活動をいつも積み重ねている」(同社幹部)。

生産性を引き上げるうえで、おそらく他の企業ではまねできない強みは自家発電である。明治末期、岐阜県大垣地域で地域振興のために揖斐川上流に水力発電所を建設し、その電力を供給することで産業を誘致しようと考えた。その構想から生まれたのが揖斐川電力。イビデンの前身である。

その後、同社は電力を利用した電気化学工業会社へと姿を変え、中心事業は電子関連やセラミックとなった。ただ、揖斐川上流の水力発電所はずっと手元に置いてきた。現在も3カ所の水力発電所を所有している。

昨今ではエネルギー問題がクローズアップされ、自家発電の需要性は一段と高まっている。同社は07年に初めて本格的な補修工事を行うなど、供給体制を盤石にした。1992年からはコジェネ用のガスタービン、05年からは大規模な太陽光発電システムを導入した。これら自家発電による「電力の自給率」は6割以上になる。

自家発電量をすべて購入電力にした場合との比較では、年間10万㌧近くの二酸化炭素削減効果があると試算される。同社は、単純に購入電力から自家発電へシフトすることを考えているわけではない。原油価格の動向や気候変動などそのときどきの環境や条件によって、最適なエネルギー、工場を使い分けている。太陽光発電も加えることで、同社はさらに効率性を追求する構えだ。

10年3月期の営業利益については、パッケージ基板の回復と生産性改善の効果が予想以上に大きいことから、会社計画の150億円を上回る230億円程度(前期比2.1倍)は見込めそうだ。さらに11年3月期以降は規制強化を背景としたDPFの需要増が上乗せされてくる。業績回復への追い風はさらに強まることになるだろう。

為替が円高傾向なのは懸念材料となりそうだが、確かなのは、電子、セラミックという中心事業の復活シナリオがすでに見えていること。今後、株式市場でも本業の回復度を織り込む動きとなるだろう。

※記事はオール投資執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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