相場底入れを巡る「売り方」「買い方」の攻防

安易なカラ売りはもう危ない

岩本 秀雄

下落がずっと続いた銘柄、あるいは底値を往来していた銘柄が人気化して株価が上放れると、信用取引の売り残は急増する。純粋なカラ売りなのか、ツナギ売りなのか実情はよくわからないが、「急騰したから、とりあえず売ってみる」という反応をみせる投資家がいるのだろう。

この「ちょっと売ってみる」は成功することが少なくない。その株価上昇で“ヤレヤレ”売りが出るため、買い残は減る。そこで、信用取組は意外なほど急速に改善することが多い。いうまでもなく、売り残は将来の買い需要、買い残は将来の売り圧力となる。信用取組の改善は株価にプラス材料となるため、「信用妙味」などとはやされる銘柄が現れる。

以上が一般的なパターンだ。最近でも、欧州債務危機に円高、企業業績の意外なほどの減額修正、そして政局も危なっかしい、これほどのマイナス材料が揃いながらも、来期の業績回復などを織り込み、株価は戻りに入る銘柄が多い。信用取引では買い残減、売り残増の傾向を鮮明にしている。

東京証券取引所が発表する3市場信用取引残高によると、2011年12月18日から12年2月8日までの8週間で信用買い残が2508億円減り、売り残が667億円増えた。これによって、売り残と買い残の比率を示す信用倍率は3.82倍から2.91倍に改善した。この数字は2011年2月初め以来の低水準だ。

安易な空売りはもう危険

右図だともっとわかりやすい。日々の株価の変動と重ね合わせてみるため、日本証券金融の貸し株残(売り残)と日経平均株価の推移を並べてみた。日経平均が回復するとともに、売り残が着実に積み上がっていることが一目瞭然だ。

「相場の底入れは売り方がつくる」という格言がある。チャートでは株価が下げ止まっただけでは「底」にはならない。株価が反転上昇してはじめて底打ちの形となる。同じように、蓄積された信用取引の「売り」が反対売買され、現物「買い」に転化するような局面が訪れることで相場は底打つ。

売り方が損失覚悟で買い戻すことを「踏み上げ」という。株価が意に反して上昇してしまっても、すぐに買い戻すとは限らない(ツナギ売りもあるし、高値まで粘る売り方もいる)。売り方が居座ったまま売り崩すか、逆に「信用妙味」をはやす買い方が勝利するかは、その時々の力関係による。大事なのは、株価の推移を見ながら、これまでのように売り方が勝つのかどうか、慎重に見極めることだろう。

ひとつ留意しておきたいのは、ここ最近の株価上昇を見る限り、ここから安易なカラ売りは危険だということだ。例えば、アドバンテスト(6857)は2012年年初からの株価上昇率がほぼ5割に達し、信用倍率1倍にまで急改善している。売り残が積み上がった銘柄は、それを手がかりに買い方に攻められる懸念がある。洞察力が求められる局面と言える。

講師=岩本秀雄(いわもと・ひでお)/ストックボイス副社長。日本証券新聞編集局長などを経て現職。30年間、激動の株式市場を見続けてきた。

※記事はオール投資執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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