焦点:経常黒字の大幅減少が示す供給力の減退、数年内に赤字転落の声も

早くも訪れた成長の限界、稼ぐ力が「老化」

5月12日、2013年度の経常黒字が過去最少の7899億円にとどまったことは、足元で起きている大きな構造変化の現実を示した可能性がある。写真は都内で昨年2月撮影(2014年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 12日 ロイター] - 2013年度の経常黒字が過去最少の7899億円にとどまったことは、足元で起きている大きな構造変化の現実を示した可能性がある。それは国内における供給力の減退だ。

この先、景気拡大が目立つ局面では貿易赤字が拡大し、海外投資からの所得還流も伸び悩み傾向が定着すれば、数年内に経常赤字に転落するリスクを指摘する声も浮上している。このことは、日本の長期金利の先行きにも暗い影を投げかけている。

<早くも訪れた成長の限界、稼ぐ力が老化>

「このままでは数年以内にも、わが国の経常収支が構造的な赤字フェーズに入る可能性がある」──。 日本総研調査部長の山田久氏は、日本経済の構造変化に着目する。その結果として、予想外に早く日本経済が経常赤字体質に転落するリスクに注目するべきだとの声がエコノミストを中心に急速に広がってきた。

こうした認識が広がったきっかけは、皮肉にも2013年度に景気が急速に拡大したことだった。

アベノミクス効果もあって消費や公共投資を中心に景気が拡大し、企業活動も活発化。その結果、成長率は高まったにもかかわらず、その需要を国内で賄いきれず、多くを輸入に頼った。

その反射的な効果や円安も加わって、国際収支統計上の輸入額は80兆円に膨らみ、統計開始以来最大となった。しかし、輸出は69兆円にとどまり、ピークだった07年度から15%減少している。

そこで頼みの綱とされているのが、海外投資からの所得還流を示す所得収支の黒字だ。毎年確実に増え続け、年間10兆円以上をたたき出しているが、ここ数年伸び悩みが目立つ。13年度は円安が40%進行したが、前年比13%の増加にとどまっている。

第一生命経済研究所・首席エコノミスト・熊野英生氏は「経済成長率は上昇したが、潜在成長率は必ずしも上昇しなかった可能性がある」と分析する。そのことが、思いのほか早く需給ギャップを縮小させ、対外収支を赤字化させたとみている。つまり経済が「老化」して潜在成長率の上昇が鈍くなったともいえる。

<国内生産能力は低下続く>  

こうした成長の限界は、企業が生産能力を落としてきたことが一つの背景だ。生産能力指数は2010年を100として今年2月に96まで低下している。

もう1つは労働力人口の減少だ。思いのほか早く労働需給が完全雇用に接近してしまい、3月日銀短観では製造業でさえ人手不足状態となっている。

また、足元ではアジア経済が伸び悩み、その分野で海外投資の残高が伸び悩んでいるほか、国内経済の限界を意識し、海外での再投資を念頭に海外での収益を国内に還流させない動きも出てきており、こうした点が所得収支の黒字拡大基調を妨げている。

こうした構造的な成長の限界を踏まえると、経常収支が近いうちに赤字化する可能性がゼロとは言い切れなくなっている。14年度は消費増税による輸入の伸び悩みによって、かろうじて数兆円の黒字が確保可能と見られているものの、いったん景気が回復すると、輸入が増えやすい構図が定着すると予想される。つまり国内景気が拡大すれば、経常赤字が増えやすくなる構図ができつつあるのではないか、という推論だ。

  海外景気が拡大した場合、従来であれば輸出増、所得収支増が連動して経常黒字は膨らむはずだった。しかし、現状では輸出は伸びにくく、海外金利が上昇しても所得収支の増加分は海外再投資に回り、エネルギー価格を上昇させ、わが国の輸入金額は膨らみそうだ。

<国債消化の不安定性招く懸念>

経常赤字自体は先進主要国の中で米国や英国、フランスなどで見られ、海外マネーの流入に依存すること自体は特段の問題にならない。

しかし、日本で経常赤字が常態化したとき、他国と異なるリスクがあるとすれば、あまりに巨額な財政赤字の規模と、財政再建への取り組み姿勢の印象だろう。実は先進国中で財政赤字比率(対GDP比率)が最も高い日本が、財政再建のスピード目標に関し、最もテンポが遅い。

すでに公的債務残高と家計の金融純資産(住宅ローンを除く)は、その残高が接近しており、国内での国債の消化余力は小さくなっている。

熊野氏は「国債消化は、新規国債発行額(正確には償還額を差し引く)が国内ニューマネーの増加によって、どれだけ消化できるかにかかっている。経常赤字国になれば、国内資金だけでは資金調達を賄えなくなり、民間資金需要のネット減少と海外マネーのネット流入に依存する」と解説。「この図式を脆弱だとみるスティグマ(負の烙印)が、日本の長期金利にも好ましくない影響を与える可能性がある」と指摘する。

長期金利が急激に上昇してしまう前に、経済構造と財政再建への本格的な取り組みがまったなしの状況にある。さらに遅れがちな産業構造転換を急ぐ必要があり、法人税減税による立地競争力の強化や、新規分野への投資や生産性上昇を図るための労働市場改革も必須だ。

また、アベノミクスにより円安による企業収益の拡大を実現した点はひとまず評価できるとしても、輸出強化につながりにくい構造変化や輸入コストが上昇しやすくなった弊害も勘案すべきとの声もある。「現状対比大幅な円安は、むしろ弊害が大きくなる」(山田氏)といった指摘もあり、円安政策よりも構造改革に重点を置くべき局面に変わったとも言えそうだ。

経常赤字の常態化が国債消化への脆弱性を意識させる前に、アベノミクスはここまでの改革とは質的な変化に加えて今まで以上に経済改革のスピード感を上げることが求められている。

(中川泉 編集:田巻一彦)
 

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