焦点:新成長戦略で注目のガバナンス強化策、空振りなら失望リスク

任天堂が社外取締役起用に踏み出した「わけ」

5月15日、安倍政権が6月に発表予定の新成長戦略に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化する対応策がどの程度盛り込まれるのか、国内外から関心が高まっている。都内で昨年4月撮影(2014年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 15日 ロイター] - 安倍晋三政権が6月に発表予定の新成長戦略に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化する対応策がどの程度盛り込まれるのか、国内外から関心が高まっている。政府・与党内には上値が重くなっている株価の押し上げ材料として期待する声もあるが、中身が中途半端に終われば、海外投資家の失望を招くリスクもある。

企業統治に関しては、日本と欧米諸国との間に大きな格差があるという見方が、海外投資家やガバナンスの専門家の中には根強くある。特に経営陣の業績評価に関し、取締役会が厳しい目を向けることが制度として組み込まれている欧米諸国と比べ、日本では「監視」が緩いとの指摘が多い。そのことが日本企業の業績伸び悩みにつながっているとの声もある。

長年の懸案でもあった企業統治の問題に、政権が提起しようとしている改革の圧力に、果たして日本企業は積極的に応えるのだろうか──。

<任天堂が踏み出した「わけ」>

「さすがにこれだけ環境が変わって、社外取締役は選んでいない会社も社外取締役を選任することになった」──。

2014年3月期の連結業績が3期連続の営業赤字になった任天堂<7974.T>の岩田聡社長は、今年の株主総会で同社として初めて社外取締役の起用に踏み切る理由について、ロイターとのインタビューでこう話した。

アナリストなどは、同社が「マリオ」などの主力ゲームソフトを、スマートフォンやタブレット端末に提供する戦略が成長につながると指摘するが、会社側はこれに否定的。社外取締役の起用は、こうした同社の戦略に風穴を開けるとの期待も浮上する。だが、岩田社長は、社外取締役の起用はそうした批判を聞き入れた結果ではないと主張。「日本の監査役制度が機能していないと思っていない」と話す。

一部の議決権行使助言機関は、社外取締役の選任を総会の議案にしていない企業に関し、取締役選に反対するよう推奨している。岩田社長は「少し乱暴だと思うのは事実」としながらも「現実に世の中の注目がこういう状況で、われわれもガバナンスのあり方を考え直す時期になった」と言う。

自民党の柴山昌彦衆院議員によると、安倍晋三首相は今年6月に発表予定の新成長戦略で、コーポレートガバナンス向上のための施策を盛り込む方針。労働市場、農業、貿易自由化をめぐる政策の実効性に不信感が広がる中で、日本企業の魅力を高め、投資マネーを呼び込む狙いがあるとみられる。

今年の株主総会では、任天堂だけでなく、長らく社外取締役に否定的だったキヤノン<7751.T>も、2人の候補を総会の議案として提出する。

こうした動きについて、野村証券・シニアストラテジスト、西山賢吾氏は「社外取締役を1人も置かずに突っ走るのが難しくなった」と指摘する。

また、議論は社外取締役を置くか否かから、何人置くかに移ってきているとも指摘。それは一定の進歩だが、多くの会社が自ら複数の独立取締役を採用するには、まだ時間がかかるとの認識を示した。

日本取締役協会によると、東京証券取引所の一部上場企業のうち、社外取締役が取締役会の過半数を越える会社は3.0%以下。一方およそ40%の企業の取締役は社内関係者で構成されている。

ガバナンスの専門家によると、先進国の大半では、上場企業の取締役の過半数を社外から選出するよう求めており、社内関係者と親密で経営陣に協調的な関係者が取締役メンバーを構成する状態では、株主の意見が経営に反映されにくくなるという。

2011年に不正会計問題に揺れたオリンパス<7733.T>では当時、監査役に加え取締役15人中3人が社外取締役だったにもかかわらず、買収案件に絡む不正会計を指摘できない体質だった。

日本では、その企業や業界に精通した人材が取締役を構成するべきとの考えが大勢を占める。一方で、社内に近い関係者が取締役メンバーを構成する状態では、株主の意見や考え方が経営に反映されにくくなるとの反論がある。

西武ホールディングス<9024.T>の大株主で米投資ファンドのサーベラスは、西武の経営体制を大幅に変えるよう求めてきたが、現経営陣の厚い壁に阻まれてきた。昨年の西武の株主総会では、サーベラスの推薦する取締役候補は全面的に拒否された。

ソニー<6758.T>は、一時大株主だった米サードポイントによる同社のエンターテインメント事業のスピンオフ提案を拒否し、今日に至っている。

資産運用会社、スパークス・グループ<8739.T>の阿部修平社長は、株主も投資先の企業にモノを言う権利があることを忘れがちだと指摘する。「日本企業の経営陣は、正直で勤勉で真面目に仕事をするが、経営陣に最終的な権限があるかのような勘違いをし、誰のために働いているかを忘れているのでは」と疑問を呈する。

<低いROEと連動する意識>

日本企業の多くは、戦後の復興から高度成長期にかけて銀行融資に支えられてきた経緯もあり、銀行や親密先企業との間で株式を持ち合うことが当たり前という風土があった。株式持ち合いは解消される過程にあるとはいえ、大手機関投資家が沈黙を守る安定株主として存在し続けているのは、その名残りとも言える。

大和総研金融調査部、主任研究員の横山淳氏は「取締役会といっても、日本では実質的に監督機関というより経営判断を下す会議体。名前は英語でディレクターでも、実際はエグゼクティブ・オフィサーに近い性格をもつ」と、その権限の弱さを指摘する。

こうした背景が、日本企業の自己資本利益率(ROE)の低さの根源にあるとの指摘も根強い。生命保険協会の調査によると、日本の上場企業のROEの平均値は約5%。これに対し、米企業は15%を上回っており、その差は明らかだ。

全米教職員年金・保険基金、TIAA─CREFのディレクター、メリッサ・オットー氏は「日本で企業経営は株主のためというよりも、従業員のためになされるという一般論が浸透している」と指摘。「コーポレートガバナンスに対する意識はいま急速に高まってきているが、海外と比べるとその意識は、明らかに低いと言わざるを得ない」とクギを刺す。

安倍政権は対日直接投資を2020年までに倍増させる政府目標を掲げ、経済の活路となるマネーを国内に呼び込もうとしている。

日本への直接投資は対国内総生産(GDP)比でわずか3.5%と、経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最低の水準だ。急速な少子高齢化に直面する日本としては、海外から魅力を感じてもらえず投資を呼び込むことができなければ、経済の先細りは明らかだ。

<コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、さもなくば説明せよ)>

もっとも、何も対策が打ち出されていないわけではない。金融庁は機関投資家が投資に責任を持つことを促すため、日本版スチュワードシップ・コードの導入を決定した。

また、東京証券取引所はJPX400指数<.JPXNK400>を導入し、高いROEなど一定の基準を達成した上場企業が指数の対象になるようにした。

しかし、昨年の会社法改正では、当該企業と親密な関係にない独立取締役の起用を義務付ける内容は盛り込まれず、議論は先送りとなった。日本経済団体連合会(経団連)などの反発が強かったことが要因だった。

その経団連は、会員企業のガバナンス強化を目的として独自の「行動原則」の策定に着手。今夏にも作業部会をスタートして素案取りまとめたうえで、2016年の導入を目指している。

とはいえ、最近の株式市場のパフォーマンスは安倍政権に重くのしかかる。日経平均株価<.N225>は年初来約12%下落し、安倍政権が2012年末に発足して以来、前年対比で初のマイナス圏に突入している。

政府・与党は、こうした環境を打破する政策手段の1つとして、社外取締役の起用を促すコーポレート・ガバナンス・コードの策定に向けた協議を重ねている。日本企業のガバナンスを国際的にひけを取らない水準に引き上げるという国としての方針をアピールする狙いがある。

柴山議員は6月の成長戦略で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革と合わせて「インパクトのある球」にしたいと意気込む。

コーポレート・ガバナンス・コードは、法的な強制力はないものの、導入されれば、企業が社外取締役の一定人数を起用しないことなどをはじめ、コードに従わない理由を開示させる「コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、さもなくば説明せよ)」の精神を明記する見通し。英国を含めた欧州諸国では広がっている企業の行動規範だ。

ガバナンス問題の専門家、ニコラス・ベネシュ氏は、安倍政権が第3の矢の一角として、そのような企業の行動規範に関する指針を示すことは「極めて重要だ」とみる。経団連などの抵抗により規範が策定されずに終われば「海外投資家は安倍政権の第3の矢が、中味がないと結論付けるだろう」と警鐘を鳴らしている。

(安藤律子 翻訳編集:江本恵美 編集:田巻一彦)
 

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