焦点:FCVが次世代車の覇権狙い坂道発進、政府は成長戦略で支援

世界最速のFCV普及へ、成長戦略で具体案

6月24日、政府は成長戦略の一環として水素で走る燃料電池車(FCV)の普及促進策を盛り込み、日本経済の再活性化を目指す。2月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 24日 ロイター] - 政府は成長戦略の一環として水素で走る燃料電池車(FCV)の普及促進策を盛り込み、日本経済の再活性化を目指す。すそ野の広い自動車産業の支援は、新たな雇用機会の増加に結びつくとの狙いもあるからだ。

国内メーカーも次世代車の主導権獲得に向けて、トヨタ自動車<7203.T>ホンダ<7267.T>が来年、FCVの市販を本格化させる。コスト面での課題はまだ多いが、FCVは「日の丸」も背負い、坂道発進する。

 <世界最速のFCV普及へ、成長戦略で具体案>

政府が24日に発表する「新成長戦略」では、FCVを含む次世代車の新車販売に占める割合を13年の約23%から30年には5ー7割にする目標を掲げるとともに、水素社会の実現に向けた工程表に基づき、1)FCV購入者に補助金を出す、2)2025年までにハイブリッド車(HV)と互角の販売価格に引き下げる、3)FCVの基準統一など国際調和を進めて海外展開も促す──ことなどを盛り込む見通しだ。

安倍晋三首相は昨年5月の成長戦略第2弾スピーチで、「もう議論は十分。とにかく実行に移す。新しいイノベーションを芽吹かせるため、これからも必要な規制改革をどんどん進める」と述べ、世界最速のFCV普及に向けて規制緩和を進めることを表明。水素を充填する水素ステーションの立地や水素輸送時の規制などで複数の見直しを進めてきた。

政府が今年4月に発表したエネルギー基本計画では、水素社会の推進とFCV導入加速に関する記述で丸々一節が割かれた。これまでの分量はせいぜい半ページだったが、「今回はまとめるとざっと7ー8ページに及んでおり、ここまで突っ込んで書かれたのは初めて」(資源エネルギー庁燃料電池推進室の原信幸・室長補佐)。原氏は、これまでの規制緩和の動きは今までと違って「一気呵成という感じ」で、いつまでにやるという目標時期まで決めて取り組んでいる姿にも政府の「本気を感じる」という。 

 <脱石油で期待されるFCV>

原油輸入の約8割を中東に依存している日本にとって、脱石油という観点からもFCVは期待されている。現にいま、イスラム過激派組織の侵攻によるイラク情勢の緊迫を受けて、原油価格の高止まりが続いている。原油価格の上昇はガソリン価格の上昇を招き、原油に連動する天然ガス価格の上昇を通じて電気料金にも響く。原油価格の高騰は企業や家庭の負担増につながり、経済に悪影響となる。

一方、水素の生成なら、石油や天然ガスだけでなく、褐炭といった未利用エネルギーや自然エネルギー、バイオマスなど多様なエネルギー源からでも可能だ。原油が調達できない事態に直面しても、水素の生成は継続でき、物流がストップするなどの経済的なリスクは大幅に低下する。

自民党の「エネルギー活用促進策を検討する小委員会」顧問を務める小池百合子・元環境相は、エネルギー問題の課題解決ににつながるうえに、日本の競争力確保の点でもFCVは重要で、政府による「後押しが必要」と話す。「わが国の経済は自動車産業が支えている。これからも世界をリードする役目を果たすためには、FCVが大きな競争力になる」(小池氏)からだ。

自動車製造業の出荷額は約47兆円と全製造業の2割を占め、自動車関連産業への就業者は約548万人と、日本の全就業人口の8.8%に相当する。FCVが起爆剤となり、日本経済の再興に弾みが付く道筋が見えてくれば、足元で人気に陰りがみられるアベノミクスの先行きも明るくなる。調査会社の富士経済によると、FCVの世界市場は09年の19億円から25年の2.5兆円に伸び、年平均56.6%に成長する見通しだ。

 <譲れない優位性>

世界で初めてトヨタとホンダが省庁にリース販売した02年から13年の年月を経て、両社はFCVの市販を迎える。走行時に水しか出さないため「究極のエコカー」とも呼ばれ、自動車による排出ガス汚染問題にも終止符を打てるだけに、普及には力が入る。

普及を急ぐ理由はまだある。今でこそトヨタの販売台数の半分近くを占めるようになったHVだが、インフラが不要なHVでさえ、1997年の「プリウス」発売以来、累計販売100万台を達成するまでに10年、600万台までには約15年かかった。インフラの必要なFCVなら時間はもっとかかり、早急に種まきをしておく必要がある。

それだけではない。FCVは日本の競争力が高い分野で、昨年6月にはFCVの安全性に関する世界統一基準で日本の提案が採用された。経済産業省によれば、日本の燃料電池分野の特許出願件数も世界一で、2位以下の欧米などと比べると5倍以上も引き離している。欧州勢の追撃などが激しく、燃費や品質といった日本勢の優位性が昔に比べて落ちつつある中、FCVなら優位性が確保しやすい。

 <課題はインフラ整備と価格>

だが、普及への道のりは険しい。政府は15年中に国内の水素ステーションを100基に増やす計画だが、補助金の対象は31基にとどまっており、達成できるかは不透明だ。

一般的なガソリンスタンドの整備費が1億円以下なのに対し、水素ステーション(固定式)は4億円以上。建設業者によって異なる仕様を標準化するなどして20年までに半額に下げる方針だが、設置・運営事業者はFCV需要が読めず、投資にも及び腰とみられ、水素供給インフラが整うのは「電気自動車(EV)の充電施設より困難」(東京都市大学の井上隆一郎教授)との声もある。

販売価格も課題だ。初代プリウスがそうだったように最初は損失覚悟でないと「数を増やすことはできない」(トヨタの小木曽聡常務役員)として、普及に向けて思い切った値付けも想定される。だが、原価が500万ー1000万円の間とされるFCVを最初から一般車並みの500万円以下にするのは相当の覚悟が要る。

FCVは航続距離が500キロ以上、水素充填時間は約3分とガソリン車とほぼ同程度。航続距離が約200キロ、急速充電器でも20ー30分はかかるEVに比べると優れている。

しかし、米EV専業のテスラ・モーターズは今月12日、EVを世界的に普及させるため、将来も含め全ての特許を無償で公開する方針を表明。技術でブレークスルーが起きれば、FCVの優位性が崩れる可能性もある。

世界の自動車市場では、グーグルといったIT企業がハンドルのない自動運転車を投入するなど、従来の車の概念を根本的に覆すような動きも広がり出しているが、どんな車でも地球温暖化を防ぐエコカーであることが前提だ。次世代車で先手を打つことが世界トップクラスである自動車産業の維持につながる。「国際競争力で日本が後れをとることは許されない」(小池氏)。官民連携での一段の取り組みがこれから試される。

(白木真紀、久保田洋子 編集:田巻一彦)

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