飛び火なかった「ポルトガル・ショック」、市場の楽観ムードには冷水

信用不安の懸念は小さいとの見方が大勢

7月11日、金融マーケットに警戒が走った「ポルトガル・ショック」は広がりを見せず、東京市場は落ち着きを取り戻している。写真は都内の株価ボード。2010年5月撮影(2014年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 11日 ロイター] - 金融マーケットに警戒が走った「ポルトガル・ショック」は広がりを見せず、東京市場は落ち着きを取り戻している。きっかけは同国最大の銀行への不安だったが、同行の個別の経営問題という様相が強く、グローバル市場への影響は限定的との見方が多いためだ。

ただ、マーケット全体に楽観ムードが強かっただけに、高利回り債などに利益確定売りが強まるきっかけになりやすいとの懸念もある。

<信用不安の懸念は小さい>

10日のポルトガル株式市場では、国内最大の銀行であるバンコ・エスピリト・サント(BES)の株価が一時19%も下落、取引停止となった。同行の総資産は806億ユーロ(約11兆円)。だが、総資産規模はユーロ圏銀行全体の0.25%程度にとどまる。

信用不安の背景にあったのは、同銀行の業績に親会社である創業者一族の持ち株会社の経営問題が波及するのではないか、との懸念だった。しかし、同銀行の資本バッファーの21億ユーロに対し、影響が出そうなエクスポージャーは11億5000万ユーロとその範囲内にある。ポルトガル中央銀行もBESの支払い能力に問題はないとお墨付きを与えている。

また、欧州金融危機の際に、債務懸念がある「PIIGS」の一員とされたポルトガルだが、政府の資金調達環境は大きく改善している。今年5月には欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から受けていた金融支援から「卒業」。政府債務も長期タームが多くなっており、ファンダメンタルズは安定し、経常収支も黒字化している。

市場では「今回の問題がポルトガル政府の信用不安につながる可能性は低い」(ニッセイ基礎研究所・上席研究員の伊藤さゆり氏)との見方が大勢だ。

10日の欧米市場では株式や債券などに売りが強まったが、11日の東京市場で日経平均<.N225>は小幅安にとどまり、円債先物はプラスとなった。「欧米市場も最初のリアクション後は下げ幅を縮めている。グローバル市場への影響は限定的との見方が広がったためだろう」とT&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏は指摘する。

<日本への影響度も軽微>

さらに、ポルトガルの経済(GDPは23兆円弱)はEU依存型であり、日本への影響度は小さい。2013年実績で、対日輸出は358億円、対日輸入は330億円。日本からの直接投資は32億円、進出企業も64社にすぎない。

11日の東京株式市場では、増益報道のあったキヤノン<7751.T>を除き、マツダ<7261.T>リコー<7752.T>ソニー<6758.T>コニカミノルタ<4902.T>など欧州での売り上げが大きい日本企業の株価は、軒並み日経平均を上回る下げ率となった。しかし、市場では、「材料にひとまず反応しているだけで、欧州での販売減少を特段心配しているわけではない」(国内銀行)という見方が多い。

欧州では、金融危機を経て、政府信用に関しては安全網が整備された。ESM(欧州安定メカニズム)に予備的信用枠を設定し、それでも利回り上昇が止まらないようであれば、OMT(国債買い入れプログラム)を通じてECB(欧州中央銀行)に国債を買ってもらうこともできる。

  また、ユーロ圏諸国は今年6月、一定の条件の下でESMが経営難に陥った銀行へ直接資本注入する仕組みで合意、年内にもその施策が動き出す。「どうすればいいのか誰もわからなかった金融危機当時とは大きく異なる」(伊藤氏)状況だ。

<高利回り債などの調整に警戒も>

ただ、心配がないわけではない。ポルトガルの経済成長率は、2012年のマイナス3.2%を底に14年はプラス1.2%と上向きだが、レベルとしては依然低い。銀行の収益には依然不安がつきまとう。失業率は15%台と依然高水準だ。

「ポルトガルの非金融法人部門の負債残高はGDP比で131%と極めて高く、上昇にやっと歯止めがかかったに過ぎない。こうした状況は、潜在的にマクロ経済と銀行部門に対する脅威になり得る」(シティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏)。不良債権が同国の金融部門に大きな影響を与える可能性もある。

最近のマーケットには楽観ムードが強かった。景気がそこそこ堅調ながら、金融緩和環境が継続。株高・債券高の流動性相場が続いていた。世界の金融緩和によって生み出されたマネーが、各市場に流れ込み、ジャンク債を含めたハイイールド債の利回りさえも大きく低下していた。

欧州には安全網が整備されたが、銀行規制も変わった。従来はベイルアウト方式だったが、いまはベイルインが基本。納税者負担から預金者・債権者負担になっている。

ギリシャ財務省が10日に実施した3年債入札で、発行額が15億ユーロと事前見通しの25億─30億ユーロを大きく下回ったのは、こうした不安の表れだ。「多くのファンドマネージャーは夏季休暇を前にしてロング・ポジション縮小の動きを強めている」(欧州系証券)。

りそな銀行・総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏は「評価損を抱えているときよりも、評価益を持っているときの方が利益確定を出しやすい。今回の問題が、世界の市場を揺るがすことにはならないだろうが、マーケットの楽観ムードはやや行き過ぎていた」と指摘、楽観の反動が起きることに警戒感を示している。

(伊賀大記 編集:北松克朗)

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