強気の日銀・弱気のFRB、それでも円高に進まず

短期筋による「日銀プレー」は見られず

7月16日、物価をめぐる日米中銀の対照的なメッセージを受け、本来ならドル安・円高材料とされてもいいはずだが、むしろ円安方向に動いている。写真は米議会で証言するFRBのイエレン議長。15日撮影(2014年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 16日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は強気を維持、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は弱気を通す──。物価をめぐる日米中銀の対照的なメッセージを受け、本来ならドル安・円高材料とされてもいいはずだが、むしろ円安方向に動いている。

両者の発言に日銀なら追加緩和、FRBなら早期利上げの「萌芽」とも受け止めることができる部分があったためだ。夏休み期間入りで相場の動きは鈍いが、投資家の目は早くも秋以降に移り始めている。

<「日銀プレー」見られず>

黒田総裁は15日の会見で「当面1%台の前半で推移し、2014年度後半にかけて物価上昇が再び加速し、15年度を中心とする時期に目標の2%に達する」との従来からの見通しを「変えていないし、変える必要はない」と強調。当面は1%前半で推移していく中で「月々の変動よりもすう勢を見る必要があるが、1%台を割る可能性はない」と言い切った。

一方、イエレン議長は15日、 上院銀行委員会での証言で、米景気回復は依然として不完全との認識を示し、雇用市場がなおぜい弱で所得の伸びも停滞していることから、FRBの金融緩和政策は当面、正当化されるとの考えを示した。

そのうえでFRBの緩和スタンスを強く擁護するとともに、最近のインフレ加速の兆候は、FRBが来年半ばにも見込まれる利上げを前倒しするには十分でないと指摘した。

一見、物価に対し、強気の日銀・弱気なFRBにみえる内容の発言だ。本来なら、日銀は追加緩和期待の後退、FRBは金融緩和環境の継続を予想させ、ドル安・円高方向の材料になるはずだが、実際の為替市場では、むしろドル高・円安方向に動いている。その背景は何か──。

1つは、マーケットが黒田総裁とイエレン議長のそれぞれのスタンスを、すでに織り込んでしまったということだ。「日銀決定会合の前に短期筋が日本株買い・円売りポジションを積み、何もなければ解消する『日銀プレー』は、最近はほとんど見られなくなった。しばらく追加緩和はなさそうだと海外の短期筋も織り込んだようだ」(外資系証券)という。

イエレン議長のハト派発言も「全体的にはこれまでと変わらない」(大手証券)と織り込み済みとの反応だった。

<「逆方向」の発言を材料視>

むしろ、全体的なトーンは変わらなかったものの、発言の一部に「逆方向」の内容が含まれていたことが、ドル高・円安方向の材料になったとの指摘もある。

黒田総裁は、米国の金融緩和縮小による為替への影響について「米緩和縮小が完了し利上げするならば、日本は2%目標の達成が道半ばで量的・質的緩和を継続するのだから、円がドルに対して強くなる必然性はない」と言い切った。

いったん後退したマーケットの日銀の追加緩和期待だが「秋に2度目の消費増税を決断する際に、景気や物価が落ち込む気配があれば、追加緩和を決断する可能性は依然残っているとの見方が、市場にくすぶっている」(マネースクウェア・ジャパン市場調査室の山岸永幸氏)という。

一方、イエレン議長も、労働市場の改善が想定を上回れば、金利は予想より早く、一段と速いペースで上昇する可能性があるとした。さらに金融政策報告書で、バイオテクノロジーやソーシャルメディアの株価について、バリュエーションが「割高」と異例の指摘を行ったことは、市場でも驚きをもって受け止められた。

実際、15日の米市場で金利やドル/円はほとんど動かなかったが、OIS(翌日物金利スワップ)における今後のFOMC会合での政策金利予想に関し、証言前の14日時点と直近16日時点で比較すると、早期の利上げ予想はやや増加している。「市場は米緩和の長期化を織り込み過ぎかもしれない」(国内信託銀行の為替セールス担当者)との声も出てきた。

<秋以降の賃金・物価を注視>

ただ、マーケットは夏休み期間入りでさらにこう着感が強まっている。VIX指数<.VIX>はやや上昇しているが、1カ月物のドル/円ボラティリティ(予想変動率)

このため市場参加者の目は、秋以降に訪れるであろう「ヤマ場」に早くも向き始めている。今後のポイントは日米ともに経済指標で、なかでも焦点は賃金と物価だ。

米国では、失業率は低下し、雇用も拡大するなかで、賃金の上昇が遅れており、物価を抑制している。経済は寒波の影響から順調に回復しており、テーパリング(量的緩和縮小)が終了する今年10月、利上げに移るペースを測るのは、賃金がポイントになる。

日本も人手不足が賃金の上昇につながり、物価を押し上げるかが大きな関心事だ。日銀が言うように需給ギャップの改善を通じ、消費増税の影響をこなしながら物価は1%を割り込むことなく、上昇に転じるのか。金融政策を占う大きな焦点となる。

SMBC日興証券・シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は「足元は材料も乏しく、市場もしばらく夏休みとなりそうだ。ただ、秋から冬にかけては日米ともに金融政策に関する話題が多くなってくるだろう。経済指標がどう動くか丹念にみる必要がある」と話している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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