アングル:「105円の壁」意識か、JBIC総裁発言で市場に思惑

国際金融市場で許容されにくいとのえん曲なけん制発言か

9月4日、国際協力銀行の渡辺博史総裁が、さらなる円安は多くの日本企業にとって損益の悪化要因と発言したことが、外為市場の一部で話題になっている。写真は都内の為替ボード。昨年12月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 4日 ロイター] - 国際協力銀行(JBIC)の渡辺博史総裁が3日、さらなる円安は多くの日本企業にとって損益の悪化要因と発言したことが、外為市場の一部で話題になっている。元財務官である渡辺氏の発言であるため、ドル/円での105円超の円安が、国際金融市場で許容されにくいとのえん曲なけん制発言でないかとの思惑も出ている。

渡辺総裁は3日、記者団との会合で、2015年10月に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げを延期すれば、長期金利の上昇やさらなる円安進行が進む可能性があると指摘。その上で「かなりの産業でこれ以上の円安は、損益にマイナスのところが増えてくる」とし、結果的に消費増税の延期が日本経済を下押しする可能性を強調した。

直近の為替市場では、3日午前にドル/円は一時、105.30円台と1月10日以来のドル高/円安水準を付けたばかり。市場では「チャート上では108円を目指す展開もありうるとみられていた中で、やはり105円超の円安は国際的に許容されにくいとの趣旨でないかと受け止められた」(外為関係者)という。

今年1月にも、ドル/円が年初来のドル高/円安水準を付けた直後に、米国のルー財務長官が、日本に対し「為替に過度に依存すれば長期的な成長はない」と指摘。日本の為替政策を「注視し続ける」とも発言していた。

その発言に対し「ドル/円で105円以上の円安を米国は望んでいない」(国際金融筋)との見方が浮上。実際、相場はその後102─103円のレンジでこう着状態が続いていた。

渡辺JBIC総裁は今年4月にも、緩和縮小を進める米国は、同国の政策とは正反対の緩和強化を「なかなか支持しないだろう」と述べ、日銀の追加緩和は米国に好意的に受け入れられないとの見解を表明。

一部米メディアでは、米国の意向を間接的に伝えたとの「解説」も登場。市場の一部では、渡辺氏の発言に対する関心度がジワジワと広がっている。

もっとも円安にも関わらず、輸出が大きく伸びない状態が長期化しており、渡辺総裁の発言は「単に現実を指摘したに過ぎない」(外資系証券)との見方もある。

1─3月、4ー6月と輸出は2四半期連続でマイナスが続いており、アベノミクス相場による急激な円安進行から2年近く経過しているものの、低迷が続いている。

日銀が進める量的・質的緩和(QQE)のような中央銀行のバランスシート拡張による非伝統的金融緩和は、表向きには低金利による銀行貸し出し増を促す仕組み。

だが、現実にはQQEの反射的効果としての通貨安が、輸出数量を拡大させ、国内の生産拡大を起点に景気回復の動きが本格化する──との政策波及効果に対しても、政府・日銀は期待していたフシがある。

しかし、日本の輸出低迷は予想外に長期化し、そのことが海外でも注目され、7月には米ニューヨーク連銀のエコノミストらがリポートを公表している。

内需企業にとって、円安は主としてコスト増要因。そのマイナスを数量ベースの増加で吸収し、収益を増加させることができないのであれば、輸出企業にとっても、恩恵が少ないということになりかねない。

もし、そういうシナリオが現実化していけば、マーケットにおける「円安─株高」のリンクが希薄になり、現実にはその予兆がすでに出始めているとの声も、市場の一部から出ている。

もし、こうした現象が広がり出し、マーケットがそのことを広く認識するような新たなフェーズに入った場合、日銀による追加緩和が実行されて円安が進行しても、株価が反応しないという展開も、全くの空想とは言えない可能性も出てくる。

今回の渡辺総裁の発言は「円安は全面的によい現象という市場の前提に、修正を求めるきっかけの1つになるかもしれない」(邦銀関係者)との声も出ている。

(竹本能文 編集:田巻一彦)

ReutersCopyright
copyright (C) 2017 Thomson Reuters 無断転載を禁じます

ページトップ