ECBが流動性相場の「新スポンサー」に、市場と経済の乖離警戒

FRBに代わる資金供給元になり『流動性相場』は継続か

9月5日、欧州中央銀行が流動性相場の新たな「スポンサー」になりそうだ。4日の理事会で予想外の追加金融緩和に踏み切り、量的緩和も視野に入ってきた。写真は都内の株価ボード。4日撮影(2014年 ロイター/Issei Kato)

[東京 5日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)が流動性相場の新たな「スポンサー」になりそうだ。4日の理事会で予想外の追加金融緩和に踏み切り、量的緩和も視野に入ってきた。量的緩和策が来月終了する米連邦準備理事会(FRB)に代わってグローバルマネーの供給元になると期待されている。ただ、金融緩和の背景には弱いユーロ圏経済がある。実体経済と相場とのかい離には警戒感も強い。

 <「舵」を切ったECB>

ECBのドラギ総裁はすでに「舵」を切っていたとみられている。ECBが4日に決定した追加緩和はタイミング的には意外感があったが、市場ではいずれ追加緩和に動くとの見方が大勢だった。

8月に米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれたカンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウムに「予兆」はあった。ドラギ総裁は各国政府に異例とも言える財政出動の要請を行ったのだ。同総裁は、もともと野放図な財政支出が欧州金融危機を引き起こしたとの持論を示していたことから、市場では「大きな転換」として受け止められた。

財政緊縮路線から成長路線への転換。財政支出にはドイツなどからの反対が出ており、実施のハードルは低くない。だが、ECBとしては本来の政策目標である物価だけではなく、成長支援を金融政策の面から事実上、今後行っていくのではないかとの予想が市場では広がっている。

今回、注目されるのは下限金利の中銀預金金利をマイナス0.20%にそれぞれ引き下げたことだ。「マイナス20ベーシスポイントは大きい。銀行は資金をECBに預けるのを止め、ユーロを調達資金としたキャリートレードが加速する可能性がある」(邦銀)という。

ドラギ総裁は、4日の理事会後の会見で、必要なら一段の措置を講じるとし、追加緩和に含みを残した。FRB型の量的緩和策については、理事会内でも賛否が分かれたという。だが、市場では「欧州景気の弱さからみて、いずれソブリン債などの買い入れ措置に踏み切る可能性は高い」(野村証券・投資情報部エクイティ・マーケット・ストラテジストの村山誠氏)との見方は多い。

米FRBは10月にもテーパリング(量的緩和縮小)を終了する見通しだ。FRBの資産規模を縮小するわけではないが、「蛇口」からの水(マネー)供給はストップする。過剰流動性が流れ込んでいた新興国市場などの変調が懸念されていた。

しかし、ECBが金融緩和を一段と加速させていることで「FRBに代わる資金供給元になり、『流動性相場』は継続するかもしれない」(三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長の今井健一氏)との見方が一段と強まってきている。

日本株の出遅れ感はやや薄れたとはいえ、世界的な流動性相場が進行すればグローバルマネーの流入が期待できる。円への波及ルートはやや複雑だが、ユーロ安/ドル高が進めば、米金融政策への思惑でドル高/円安が進みやすいだけに、ユーロ安/円高による影響を上回り、円安が進む可能性がある。

<19分の1に下落した銀行株>

一方、マネーが流れ込む市場とさえない実体経済のギャップが開くことへの懸念も同時に強まっている。

ECBは今回の追加緩和で10月から資産担保証券(ABS)およびカバードボンドを買い入れると決めた。カバードボンドとはローンなどの債権を担保に発行された債券だ。規模は明らかにされていないが、関係筋によると、3年間で5000億ユーロ(6500億ドル)規模に達する可能性がある。量的緩和が決まれば、ECBから供給されるマネーはさらに拡大する見通しだ。

だが、こうした措置によって銀行に流れたマネーが企業や家計に広がるとの期待は低い。銀行の流動性はすでに豊富であり、問題は経済の低迷で貸出先が乏しいことだ。ECBの金融緩和で、さらに資金を供給しても経済全体には広がらず、国債や株式などマーケットに流れるだけになってしまうおそれがある。

ECBが発表している民間部門向け貸し出しは前年比でみて5月がマイナス2.0%、6月がマイナス1.8%、7月がマイナス1.6%と、幅は縮小してきているが依然マイナス圏にある。

欧州の銀行部門は依然ぜい弱だ。株価でみても、ドイツのコメルツ銀行は2007年6月5日に付けた228ユーロから現在は12ユーロと19分の1に下落。ドイツ銀行も2007年5月14日に付けた103ユーロから24ユーロまで下落している。「金融危機から依然立ち直っていない」(T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏)のが現状だという。

一方、独クセトラDAX指数<.GDAXI>は6月に付けた過去最高からいったん調整したが、8月中旬以降再び騰勢を強めている。他方、ユーロ圏の4─6月期国内総生産(GDP)がゼロ成長となるなど経済指標はさえないデータが続いているほか、緊張の続くロシアとの経済制裁の影響も広がってきた。市場と経済のギャップが目立ってきている。

株高による資産効果やユーロ安による輸出ドライブが起きれば経済にもプラスだ。金利低下も経済を下支える。しかし、超金融緩和で生み出されたマネーがファンダメンタルズの裏付けを超えて暴れ回れば、そのツケはいずれ実体経済に跳ね返ってくる。

(伊賀大記 編集:内田慎一)

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