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消費税の引き上げ、年金改革が重要だ――IMF財政局担当者に聞く

 来日中である国際通貨基金(IMF)のマルティーヌ・ゲルギル財政局アシスタントディレクターが27日、東洋経済の単独インタビュー取材に応じた。ゲルギル氏はIMFが4月に公表した「財政モニター」報告書の担当者の一人。日本政府が計画している2014年からの消費税率引き上げについて、「さらなる引き上げが必要であり、ターゲットを絞った給付などの年金改革も重要だ」と述べた。同時に、長期的な観点からは「過去10年間、日本の成長率はゼロ成長だった。これをさらに引き上げる必要がある」と指摘した。インタビューの一問一答は以下の通り。

――本日、日本銀行が一層の金融緩和に踏み切りました。日本にとってデフレ脱却と財政再建の両立は難しい課題ですが、長期のデフレに苦しむ国における財政再建はどのように進めるべきなのでしょうか。

 この2つの戦略を同時に、並行して実行することが非常に重要だ。地震や津波からの復興を遂げないといけないが、長期的には低成長が続き、高水準の債務レベルも持続することになるだろう。そう考えると、日本の当局は大々的な財政再建を実行せざるを得ない。そのためには、信頼性の高い、長期にわたる計画を設計しないといけない。これがうまくいくと、日銀のデフレ対策にとっても助けになる。

 日本の当局が長期的に、公的債務にきちんと対処できるのか、信認はかなり欠如している状態であり、日本の債務レベルは世界一の水準だ。対策に即効薬は存在せず、対策は長期なものにならざるを得ない。まずは、複数年度にわたる、信頼性のあるプランを描いて実行していく、ということだと思う。そうなると、徐々に信認が回復し、需要も増え、デフレ圧力も減ってくるのではないだろうか。

――日本政府が公表している「経済財政の中長期試算」や「中期財政フレーム」について、どのように評価していますか。

 消費税率を引き上げることは至極適切だと思う。日本は消費税率は世界でも最低水準だ。欧州の平均は20%で、日本にはまだまだ消費税率を引き上げる余地が沢山残っている、また、消費税は効率の良い税制であり、引き上げると、順調に税収が伸び、経済に与える歪みも少ない。

 ただ、消費税率の引き上げは最初の第一歩に過ぎない。日本の場合、まだプライマリーバランスの赤字は残る。当面のところは消費税率5%を10%に引き上げるが、さらにもう一段、たとえば15%までは楽に引き上げることができるはずだ。二番目に必要なのは、歳出改革だ。日本の場合、歳出改革の余地があまり残っておらず、改革するとすれば、対象はやはり年金になる。たとえば、年金の支給開始年齢を引き下げるなどの対策を実施していく必要がある。

――日本の年金給付の水準(対GDP比)は、他の先進国と比べて高いのでしょうか?

 高い。日本の人口が急速に高齢化しているからだ。近い将来、2人の現役世代で1人の高齢者を支える時代が到来する。日本はいわば、他の国に先がけて高齢化を経験するが、他の国もいずれ日本に追随する。これは日本に特異な問題ではなく、ただ時期的に日本に早く到来するだけの話だ。

 年金の支出は歳出項目の中でも非常に大きな部分を占めており、高齢化が進行すると、医療費も増大する。やはり今後の歳出は、よりターゲットを絞って、本当に必要としている人に多めの給付を与え、貯蓄や所得のある人には公的年金を減額する政策が必要だと思う。年をとっても退職するのではなく、労働参加率をさらに上げることが必要だ。

――今回公表した財政モニター報告によると、日本政府の対GDP比の歳出は40%前後、歳入は30%前半と、他の先進国と比べても「小さな政府」と言えます。

 日本は確かに相対的には小さな政府になっているが、歳入と歳出のバランスが重要だ。日本は比較的小さな政府であることは良いことで、それ自体は財産になる。しかし、同時に歳入のレベルも比較的低レベルであり、税収で歳出すべてをまかなえていなかった。日本は歳入を増やす余地が結構残っている。しかし、増税するにしても限度がある。とてつもなく高い税率に上げることはできない。このため、ある程度歳出のレベルについても考えていかなければいけない。

 他の先進国に比べると、日本の政府の規模は相対的に小さい。それは国有企業や補助金をあまり持っていないからだ。他国の場合、食料用や燃料用の補助金を出していることが多く、これをやめることで余裕が出る。しかし、日本は厳格に歳出項目が決まっており、歳出をこれ以上減らすことはできない。社会保障と医療の部分を抜くと、日本は残りの部分は小さい。しかし、欧州は年金や医療を引いても、かなり残りの部分が大きい。つまり、日本は相対的に国家としては小さい。税率を上げればある程度歳入を増やすことができる。その点欧州と異なる。

 さらに、たとえば退職年齢を引き上げるとか、女性にもっと社会進出してもらうとか、そういう構造改革を行う必要もある。

――財政モニター報告であげている財政指標のうち、日本の場合はどのような数値に注目しているのか?

 年金や医療費の伸び(対GDP比)について、支出の水準は高いが、増加率は小さい(2010年から30年までの伸びは、年金でマイナス0・2%、医療費は1%)。これはポジティブなサインだ。たとえば、韓国は高齢化の進展度が早く、年金や医療費の伸び率が日本より高い(年金は4・5%、医療費は3・2%)。

 一方、悪い数値は、対GDP比の資金調達指標(Gross financing needs)だ(2012年見通し)。日本は59・1%で、世界一高水準で、これは良いニュースではない。この指標は、財政赤字額と償還期限の到来した国債の借り換え額の合計値で、市場から毎年いくら調達しなければいけないかという規模を示している。赤字の規模が大きく、かつ債務残高が大きいと、この数値は大きくなる。

 もう一つ注目しているのが国債金利と成長率の差だ。日本の場合、2012年から17年までの見通しで、マイナス0・5%。日本は成長率も低いが、超低金利が継続しており、今のところ、この数値はマイナスになっている。

 この差はマイナスの方が良いが、実はマイナスになることはあまりない。歴史的、経験的にみると、この数値は1%のプラスであることが普通だ。現在は、米国などの金融緩和によって超低金利が続いており、国債金利と成長率の差は、ほとんどの国でマイナスになっている。

 伝統的に国債金利はだいたい2-3%。たいていの国では、金利が上昇する時は成長率も上昇する。国債金利と成長率の差も、小幅ではあるが、プラスに転換する。しかし、日本の場合、金利が上昇しても、成長率が伸びない可能性がある。そうなると、債務が急ピッチで増えることになる。懸念するのは、それをまかなうだけの貯蓄率が日本の場合不足することだ。日本は今までのところ貯蓄率が高く、それに甘んじて国債発行ができたわけだ。しかし、これにも限度がある。さらに、債務が増えると、国内では国債を消化しきれず、海外投資家に日本国債を買ってもらうことになる。そうすると、さらに上乗せして金利が上昇することになる。

 過去10年間の平均をとると、日本の成長率はゼロ%だった。他の先進国は平均で1-2%の成長を達成してきた。日本は成長率を長期的観点から伸ばさないといけない。

――日本では財政ルールの一つとして、ペイアズユーゴー原則を採用しています。さらにとるべき財政ルールとしてはどのようなものが考えられるのでしょうか。

 財政ルールを導入することで、これ以上事態が悪化しない歯止めをかけることができる。歳出を増やすなら、その分歳入を増やしてマッチングさせることは重要だが、だからといって赤字という事態が改善するわけではない。歯止めをかけるだけだ。財政赤字のトレンドを変えていくには抜本的な財政改革が必要になる。日本の場合は、財政ルールを云々する前に、財政改革を実行することが先決だ。しかし、これは非常に大変だ。しかし、日本ではそれにもめげず、財政改革を先決でやっていかなければいけない。

 財政ルールは、ルールなので厳格化される形で出るが、日本の例で明らかになるように、厳格化されたルールは必ずしも履行されるとは限らない。地震や津波もある。そういう事態が発生すれば、増税する前にまずは歳出を増やさなければならないからだ。

 問題は、日本だけでなく、多くの国が実際ルールを守っていないことだ。つまり、自然災害やリセッション、銀行危機のような異例の事態が起こると、いろんな事情でルール守らないことが出ている。最近では、ルールからの乖離幅を認める、よりフレキシブルな財政ルールの動きが出ている。状況によっては違った財政政策の余地を容認する、という考え方だ。ただ、緊急事態が終わると、ちゃんと財政赤字が戻るように是正メカニズムを入れる。赤字が高めに推移しないようにする。実際に欧州やラテンアメリカの何カ国かも、複雑ではあるが、今回の危機を踏まえ、ルールを守れないことを勘案した新しい財政ルールを導入している。本当にこういったタイプの財政ルールがうまくワークするかはまだ蓋を開けてみないと分からない。

(山田徹也 =東洋経済オンライン)

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