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日銀は金融政策を現状維持、景気の緩やかな持ち直し受け

 日本銀行は9日の金融政策決定会合で全員一致で現状維持の方針を決めた。海外経済は減速状態から脱していないものの、国内需要が堅調に推移していることから、景気は緩やかに持ち直しつつあるという見解も7月の決定会合の判断と同じ。引き続き、欧州債務問題を巡る動きを十分注意してみる必要があるとした。

 7月の決定会合では、資産買入等基金(以下、基金)による金融緩和で、短期国債の買い入れで金融機関からの申込みが日銀の予定した金額に届かない「札割れ」が相次いでいる状況を受け、下限金利の撤廃を決めた。つまり、金融機関からより高い価格で買い入れができるようにすることで札割れ回避を図る措置をとった。

 しかし、8月1日のオペレーションでは長期国債の買い入れで札割れが発生。9日の会見では長期国債の下限金利撤廃に対する質問が相次いだ。だが、白川方明総裁は「下限金利撤廃が必要な状況ではない」と明確に否定。札割れについて、「金融緩和がそれだけ浸透していることの現れ」(白川総裁)とこれまでと同様の説明を行った。

 現在、基金の残高は約55兆円(7月末時点)。国債の買い入れを中心に今年末までに65兆円、来年6月末までに70兆円へ増やす目標を掲げている。残高拡大の進捗は重要だが、日銀が「金融緩和が浸透している」とするならば、そうした環境がどれけ企業に活用されているかをみることがより重要だろう。

 日銀が毎月公表する貸出動向(銀行・信金の合計)を見ると、08年秋のリーマンショック後は手元資金を厚めにしておきたい企業が借り入れを増やしたため、08年末に470兆円台と危機前から10兆円以上増えた。だが、危機が落ち着いたことで返済がなされ、10年5月には460兆円台を割り込む。その後は450兆円台での増減を繰り返し、直近7月の平均残高でも458兆円となっている。

 「復興絡みの需要や企業のM&A関連の資金ニーズがみられる」(日銀金融機構局)とはいうものの、各地の地銀からは「資金需要は相変わらず停滞している」とネガティブな声ばかり。被災地の金融機関でも「設備投資のための長期の資金需要を期待したが、今のところは短期の運転資金が多い」と、期待したほどの動きは見られていないようだ。

 

 低金利下で限られたパイを奪い合う状況が続き、結果的には資金利益を減らしている銀行がほとんど。集まる預金を貸出に回せないため市場運用が増え、09年に100兆円に達した銀行の国債保有残高は直近で約170兆円(全国銀行ベース)まで増えている。

 下限金利撤廃による札割れの回避は、基金の残高を積み上げを進めるうえでのテクニカルな話にすぎない。日銀が基金で国債の買い入れを進めて長めの金利低下を促したところで、企業の投資意欲を刺激する流れに繋がらない状態が延々と続くようだと、金利低下と資金需要低迷による金融機関の収益低下という副作用がより注視されるべきだろう。

以下は会見での主なやりとり

--海外経済の下振れ懸念について、どうみているか。

 欧州経済は停滞した状態がしばらく続くとみられる。米国は高い成長は期待できないが、回復は続くだろう。中国経済もインフレ率の低下や金融緩和やインフラ投資の前倒しなどの政策効果が発現し、成長ペースは高まると考えている。

 

 海外経済が減速を脱することで日本の輸出も緩やかに増加すると考えている。ただ、欧州情勢の不安定な動きが続く中、米国や中国の回復に対する不確実性は小さくない。先行きのリスクの点検を丹念に行う。

--8月に入り長期国債の買い入れで札割れが起きた。7月の措置に加えて追加的な札割れ対策を行う考えは。

 欧州債務問題を背景とした「質」への逃避もあり、長期国債が買われて利回りが低下している。金融機関の応札行動は、グローバルの金融市場動向を反映した金利動向に加え、個々の金融機関のポートフォリオや投資方針に依存して変化する。現状、基金の積み上げが困難になっているわけではなく、長期国債買い入れの下限金利撤廃が必要な状況ではない。基金の着実な積み上げを通じて残高目標を達成していく。

--7月の決定会合後の札割れ対策の効果をどうみているのか。

 短期国債の買い入れと合わせて残存1年以下の長期国債買い入れオペでも下限金利を撤廃した。これらはオペに対する「札」を十分に確保するうえで有効だったと評価している。

--長期国債(残存が1年以上3年以下)買い入れによる下限金利撤廃の必要はないとのことだが、札割れが相次ぐ場合には撤廃も辞さないのか。

 国際的な低金利環境のもとで日本国債の金利も低下していることが札割れに影響している。市場の状況や入札の状況を点検し、基金の着実な積み上げを進める。

--資産買入等基金での札割れは、金融政策の手詰まり感を示しているのではないか。

 札割れという現象は日本銀行の金融緩和がそれだけ浸透していることの現れ。金融緩和が強力に行われている証しだと思っている。こうした金融環境が投資活動の後押しにどうつながり、それをどう実現していくか。成長力の強化に取り組むことで経済が成長する余地は大いにある。

--欧州中央銀行が国債の買い入れを再開する意向を示した。これに対する評価は。

 詳細が発表されていないので直接コメントしにくいが、金融市場の安定を維持するためにこうした取り組みを行う考え方は十分理解できる。同時に、中央銀行の流動性供給だけで問題を抜本的に解決することはできない。

--中央銀行ができること、できないことをどう考えるか。

 中央銀行は無制限で流動性を供給できるという大きな力を与えられている。この力をどのような形で使うかについて、各国の中央銀行法では金融システムや物価の安定が規定されている。

 

 現在、先進国の政策金利はおおむねゼロで、長期金利の水準も非常に低い。金利から景気への刺激効果はだんだん限定的になっているのは、エコノミストの間で共通の理解になってきているように思われる。

 

 一方、金融システムの安定を図ることは非常に重要だ。ただ、中央銀行の流動性供給で時間を買うことはできるが、(欧州債務問題で)構造改革の必要性をなくすものではない。(井下健悟 =東洋経済オンライン)

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