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日銀が市場の予想通り金融緩和を決定、物価上昇率の達成時期も“言及”

 日本銀行は4月27日の金融政策決定会合で追加の金融緩和を決めた。そもそも、2月に緩和を強力に推し進めていくとしていただけに、「ゼロ回答はありえない」「ポイントは金融緩和の額が5兆円か10兆円かどうか」等々、市場関係者からは27日の金融緩和は半ば「当然」とみられていた。

 

 2010年10月から追加緩和のツールにしている資産買入等基金(買入基金)の中で、2月に続いて長期国債の買入をさらに10兆円増額。2月と今回の積み増しで長期国債の買入枠は合計20兆円増やした(合計の買入枠は約30兆円)。また、長めの金利の低下を図るため、従来の「1年以上2年以下」という長期国債の買入対象の年限を「1年以上3年以下」に伸ばすことも決めている。

 今回は「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」も公表され、成長率や消費者物価指数に対する政策委員見通しを示している(図参照)。2月に「中長期的な物価安定の目途」として当面1%という事実上のインフレ・ターゲットを発表。これに対して展望リポートでの物価見通しの水準が注目されていた。結局、13年度見通しは1月時点よりも上方修正されたが、前年度比でプラス0.7%(政策委員見通しの中央値)にとどまった。

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 13年度の見通しとの乖離から緩和を決めたのか、という見方について白川方明総裁は明確に否定。「(経済や物価の情勢が)上向いている時に金融緩和をする例はあまりないが、明るい動きが見え始めたタイミングでこのモメンタムを大事にしたい」と緩和の理由を説明した。実際、4月10日の決定会合では「持ち直しに向かう動きがみられている」としていた経済情勢の判断を「持ち直しに向かう動きが明確になりつつある」とより前向きな表現に変更している。

 

 前回の会見では「当面1%」というメドを達成するタイミングについて質問が相次いだものの、白川総裁は明確な答えは避けていた。しかし今回、発表文には「1%に遠からず達成する可能性が高い」と明記。景気見通しに明るさが見えてきたとの判断から、「半年、1年前のゼロ金利(政策)よりも、今のゼロ金利(政策)のほうが景気刺激効果は強くなっている」(白川総裁)と、珍しく金融緩和の有効性を強調した。

 同じゼロ金利でも「効き目」が違うというのであれば、追加的に長期国債を買い増すことにどれだけの有効性があるのかという疑問が残る。白川総裁はかねてから「国債の買入は金融政策の目的を実現するために行っている。財政のファイナンスを目的としたものではない」と強調してきた。

 

 しかし、国会では消費税論議がなかなか進まず、日本の財政再建が確実に進むと楽観できる状況にない。今回の展望リポートでも「上振れ要因・下振れ要因」として財政再建の重要性について初めて言及した。日銀が金融緩和をさらに推し進めた一方で、??\xA1政再建の着実な進行が大きなカギを握ることになる。

以下は会見での主なやりとり。

――前回の決定会合では緩和を見送り、今回は全会一致で緩和を決めた理由は。

 先々の経済・物価見通しについて、展望レポートで体系的、包括的に点検をするのは非常に大事な機会だ。あらためて日本経済が持続的な成長経路に復していくがい然性を判断し、それが高いと判断した。そのうえで足元の明るいモメンタムを後押しすることがわれわれの目的達成に有効と判断した。

――今回の展望リポートで委員の大勢見通しが1%に届いていないことが、今回の金融緩和の理由なのか。

 そうではない。1%という見通しをできるだけ早く達成したいとは思っている。だが、金融政策の効果波及にはかなり長いタイムラグがある。それを無視して無理矢理に金融緩和を強化していくと、かえって物価の安定が損なわれる。

 最適なスピードを超えてアグレッシブな買い入れを行うと、一時的に長期金利が下がるかもしれない。だが、中央銀行に過度に依存した市場になる結果、何らかのきっかけで反転上昇も起こりうる。これは金融機関にも大きな影響を与え、結果的には物価の安定、経済の安定を損なう。われわれは最適なスピードを意識しながら政策運営を行っている。

――基金での長期国債の買い入れについて対象の年限を3年まで伸ばした。金利の動向によってはさらに長めのものを買っていくのか。

 3年以下にまで働きかけるのは日本企業の資金調達構造を見るとこのゾーンでの利用が多いため。日本の金融構造に即してもっとも有効な政策の手段を考えていく。

――今回は買入基金の中で札割れが起きていた固定金利オペの金額を減らした。こうした部分では緩和が十分だとはいえないのか。

 札割れが生じている事実は、民間の金融機関で資金が十分にあり、これ以上の資金はいらないともいえる。量という面ではそうだが、短期金利がゼロになっている中で金融緩和効果を作り出すためには、長めの金利やリスクプレミアムに働きかけるしかない。

 そういった観点からすると、短期金利の固定金利オペの世界ではなく、3年以下という期間を延長したゾーンで買入を行うということが、合理的な選択だと思う。

――物価上昇率1%を「遠からず達する可能性が高い」としているのは、14年度も含めてという理解でいいのか。

 今回の展望レポートの見通しは2013年度まで。(13年度以降の見通しについて)計数を示すのは今年の秋の展望リポートになるが、(達する可能性という意味で)14年度も含めてというふうに考えている。ただ、3年先の経済予測の精度は落ちる。大きな見通しや判断を持ちつつ、それに拘泥せずに現実経済の展開に即して考えていきたい。

――1%の達成について、消費税の影響をどうみているか。

 消費税はこれから国会の審議にかかる段階なので、日銀として消費税の引き上げを見通しの中には織り込んでいない。

――「遠からず」ということで、むしろ時間軸が短くなったようにみえる。

 時間軸に対する考え方はまったく変わっていない。物価については、最大限の努力をして的確な予測をしたいと思っているが、上振れ下振れ要因もある。それを毎回の会合でしっかりと見ていく。

――(講演などでは)中央銀行が国債を買い増す懸念も示していた。あえて今回、国債買い入れを増額した理由は。

 国債の買い入れは金融政策の目的を実現するためで、財政のファイナンスを目的としたものではない。趣旨を明らかにするために基金の形で国債を分別管理している。

 一方、買い入れ額が大きくなると日本銀行の意思にかかわらず、マーケットの中で「これは中央銀行による財政ファイナンスではないか」という疑いが出てくることは、一般論としてありうる。そうなると金融政策の効果が損なわれるだけでなく、日本経済に大きな悪影響を与えるので、財政健全化の取り組みはしっかり進めてほしい。

――国会で消費税議論がなかなか進まない中、日銀が国債を買い増すことは信認を損なうことにならないか。

 消費税についてのコメントは差し控えたい。繰り返しになるが、金融政策の目的を達成するために今回の緩和を決定した。日銀として財政ファイナンスを行う考えはまったくない。金融政策の効果を上げるためにも、日本経済の健全な発展のためにも財政健全化は大事であり、ぜひ取り組んでいきたい。

――政治のほうから具体的な緩和の手段に言及する声もあった。日本銀行の独立性としてどう考えているか。

 日本銀行としてさまざまな声に謙虚に耳を傾けながら、中央銀行として責任をもって金融政策を遂行していく。

――今回の緩和を受けて、会合ごとに金融緩和をやっていくべきだということにはならないか。今後の金融政策運営の考え方は。

 金融政策の効果の波及には時間がかかる。経済・物価がどういう方向に向かっているかが重要だ。今回は望ましい方向へ向かっていることを確認した。上向いている時に緩和をする例はあまりないが、明るい動きが見え始めたこのタイミングでのモメンタムを大事にしたい。毎月、毎月やっていくというわけではない。

――1%を達成した後の政策のイメージは。

 1%にできるだけ早く実現したいと思っている。だが、1%がしっかり見通せるということはまだ先。達成後の政策を語るのは時期尚早だ。

(井下健悟 撮影:尾形文繁 =東洋経済オンライン)

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