夢のアルツハイマー治療薬で大化け期待の銘柄は

メガファーマも開発に傾注

2016年11月30日
アルツハイマー認知症治療薬開発のトップランナー、エーザイの内藤晴夫社長(撮影:梅谷秀司)

 製薬会社やバイオベンチャーの開発ターゲットはがん治療分野が圧倒的に多い。がん分野に次ぐ開発テーマとして各社が知恵を絞っているのがアルツハイマー認知症治療分野である。

 日本の認知症患者の7割はアルツハイマー型認知症であり、第2位の脳血管性の認知症は全体の2割弱にとどまる。高齢化進展の中でアルツハイマー型認知症の患者は増加しているが、若年層に広がっている点も見逃せない。若年層のアルツハイマー型認知症は、介護をする家族への負担が大きい。認知症患者の増加は経済的な損失も大きく、政府は同分野の研究の支援を進めている。

 日本初の認知症治療薬は1978年に承認された田辺製薬(現田辺三菱製薬、4508)の「ホパテ」である。同薬は認知症治療の画期的な薬剤として登場したが、副作用問題の浮上などから89年に劇薬指定となり、98年には効能も取り消された。

 その後、「ホパテ」に続く医薬品が相次いで登場。さらには脳細胞の代謝を活発化させる薬剤と、脳に栄養分などを供給することで認知症を改善しようという試みが具体化し始めた。市場獲得に最も成功したのは武田薬品工業 (4502)の「アバン」(脳代謝改善薬)と「カラン」(脳循環代謝改善薬)である。

 両剤をめぐっては併用による「キャラバン戦略」という販促活動が行われ、同社のドル箱商品に成長した。脳代謝改善剤市場は他の製品の発売もあり、トータルで8000億円のマーケットに成長したが、その後は効能を疑問視する意見もあって承認が取り消された。

ポスト「アリセプト」の開発が加速

 日本のアルツハイマー認知症治療分野で初めて世界的な評価を受けたといえるのがエーザイ (4523)の「アリセプト」だ。「アリセプト」の作用システムは明快である。アルツハイマー型認知症では神経伝達物質のアセチルコリンが減少することが確認されている。脳内にはアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼという酵素が存在。「アリセプト」はアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで脳内のアセチルコリン濃度を高め、アルツハイマー型認知症の悪化を防ぐ。

 「アリセプト」は97年に米国で発売され、国内でも99年に投入された。米国では2010年に特許満了となるまで順調な拡大を遂げた。

 日米両国を中心にピーク時には世界で3200億円強の売り上げを達成。米国だけで20億ドルの売り上げを計上した。しかし、特許切れに伴う後発医薬品(ジェネリック医薬品)の攻勢で、世界売り上げはピーク時の2割程度に激減した。

小野薬品工業 (4528)の貼付剤「リバスタッチパッチ」や「アリセプト」と併用される第一三共 (4568)の「メマリー」などの新薬も相次ぎ登場。一方で、認知症治療のブレークスルーを目指して、ポスト「アリセプト」の開発が急速に加速する。

 エーザイは現在でもアルツハイマー認知症治療薬の開発でトップを走る。「アリセプト」開発で培ったノウハウを生かし、自社の創薬に加えてバイオベンチャーの開発品目にも触手を伸ばす。「E2609」(米国、フェーズⅢ)と「BAN2401」(日・米・欧、フェーズⅡ)の2薬剤の開発を推進。同時に、米国のバイオジェン社がフェーズⅢ試験を実施中の「BIIB037」の開発・販売のオプション権も取得した。この幅広い開発パイプラインが同社の武器だ。

 治療薬の開発では、世界の大手製薬企業、いわゆるメガファーマもしのぎを削る。イーライリリー、ロシュ、ノバルティスといった企業は、認知症の発症前などをターゲットに新薬の開発を進める。

 注目されるのは「薬剤」の開発だけではない。脳の細胞に薬剤を効率的に運搬する技術開発が進展もしている。新薬の候補物質がアルツハイマー認知症に有効でも、薬剤が脳の細胞に届かなければ意味がない。それゆえ、脳に対する薬剤の運搬という分野の研究が進んでいるのだ。

 タンパク質製剤は通常、血液脳関門を通過することができない。だが、JCRファーマ (4552)が開発中の血液脳関門通過技術(J-ブレインカーゴ)を活用すれば、脳組織に薬剤を取り込むことが可能になるため、効能が飛躍的に向上する可能性もある。現在、エーザイをはじめとして大日本住友製薬 (4506)ペプチドリーム (4587)などとも開発提携をしており、今後の展開への期待が膨らむ。

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