一部M&A業者のカネ儲け優先の現状に一石投ず

合併・買収ビジネスの知られざる実態

松崎 泰弘
2017年01月11日
今やM&Aの波は大手だけでなく中小企業にも広がる。1947~49年に生まれたいわゆる「団塊の世代」生まれの経営者が後継者難などを理由に会社売却を決断するケースが増えていることなどが背景だ、これを受けて、M&Aに関する助言、仲介など関連ビジネスを手掛ける企業には追い風が吹く。会社をどうするのか悩む中小企業の経営者を主な対象に、M&A業者選びのポイントなどを詳しく説明した『損をしない会社売却の教科書』(ビジネス社刊)を著した江野澤哲也氏に現在のM&Aビジネスの問題点などを聞いた。

ーー本書を執筆した動機を教えてください。

 中小企業が会社を売却する方法にはさまざまな選択肢があるにもかかわらず、多くの経営者はそれを把握していない。「仲介業者主導」ともいうべきケースも少なくありません。そんな現状に一石を投じたいと思ったのがきっかけです。

 売り手側の情報を数多く保有する「仲介業者」が買い手側にアプローチ。「その情報を閲覧したいのであれば50万円かかる」などといった営業をして買い手側からおカネを取る。そうしたことが珍しくありません。

えのさわ・てつや●野村證券で個人の資産管理業務を経て1994年からM&Aビジネスに携わる。2008年から経営共創基盤に転職し、企業再生業務に従事した後、11年にジーアシストを設立し代表取締役。ビジネスの領域を従来の上場会社どうしのM&Aから中小企業のM&Aへ移した。高校から大学まで7年間、ラグビー部に在籍

 売り手側が求めているのは本来、「いい条件で買ってくれる相手を探してくれ」ということ。自分のところの情報でカネ稼ぎをしてくれとは考えていないはずです。50万円の支払いを断った企業が、実は最もふさわしい買い手だったかもしれません。

 自分の顧問先企業に先日、他社の約5000万円の第3者割り当て増資を引き受けないかとの打診があり、検討を進めていました。双方の社長同士の面談も行い、「ウィン・ウィン」の資本提携になりそうだと考えていたところ、仲介業者が「成功報酬として2000万円を払ってくれなければ、次のステップには進ませない」と言い始めたのです。

 根拠なき法外な報酬であり結局、断念せざるをえませんでした。仲介業者からすれば、顧客のために最適な売り手を探すのではなく、2000万円の報酬を支払ってくれるところを探していただけだったのでしょう。

 M&Aの「仲介」というのはそもそも利益相反をもたらすおそれがあります。売り手側はできるだけ高く売却したいと考えるのに対し、買い手側は安く買いたいと考えるはず。つまり、「仲介」業者として双方にメリットがあるようビジネスを行うとなれば、高いモラルが求められるわけです。

 現実には非常に難しい。私のビジネスも「売り手目線」の立場。講演などで「M&Aの仲介を手掛けている」などと紹介されることがありますが、それは正しくありません。あくまでも売り手企業の「支援」です。

M&Aの「成立」と「成功」は違う

ーーM&A業者の単なるカネ儲けが目的になってしまっている面があると。

 仲介に携わる人の一部には残念ながら、「マッチングしてくれればそれでいい、売却後の会社がどうなっても関係ない」といった考えがあります。以前、手掛けたM&A案件でも、買収を希望するメーカーを顧客に持つ業者に「受託生産か、それとも見込み生産か」と聞いたら「そういう細かいことは今後のデューデリジェンスで確認すればいい。今はざっくりしたところを見てください」という答え。おそらく、こちらの質問の意味を理解していなかったのでしょう。

 M&A仲介のビジネス自体がコモディティ化しており、経験が乏しくともマッチングに携わることは可能。そんな状態になっているのです。

ーー「M&A」の定義をどう考えますか。

 「マッチング、イコールM&A」ではありません。売り手を支援する側からすれば、売却希望価格を提示しながら買い手候補先企業を回ることがM&A関連業務のすべてではない。

 M&Aの定義は「株主構成を変えることで会社をさらに発展させること」です。経営資源、会社の強みならびに弱みを深く理解したうえで、成長するシナリオを描く。成長を実現させるために必要な方法の一つが会社売却。オーナー経営者にこうした選択肢を増やすことが必要です。

 M&Aの「成立」と「成功」は違います。売り手側企業にとっては、一番いい相手に売却できることが成功。取引が成立しただけで「成功」とは言い切れません。

ーーだが、中小企業の経営者の多くが「実態」を理解していないのですね。

 「仲介業者に支払う着手金がなく、成功報酬の率も低ければそれでいい」といった姿勢のオーナーも結構多い。M&A業者によってサービスの内容に違いがあることすら理解していないケースもあります。

 多くの中小企業が家族経営。家長でもある社長が自らの人生を賭けて立ち上げた会社の将来をほかの人に託そう、一番いい人に嫁入りさせようと考えている。それに際しては多くの選択肢があったほうがいい。ところが今は選択肢があることすら理解されていません。

 実はM&A業務に携わる地方銀行の担当者の一部もよくわかっていない。仲介業者が売り手情報でひと稼ぎしていることなど知らないまま顧客先企業をつないでしまい、キックバックだけ受け取っている。地銀レベルでも知らないということには正直、衝撃を受けました。

メーカー同士のM&Aは難しい

 ーー読者などからの反応は。

ほかのM&A関連の書籍とは違う考え方が記されているといった評価をいただいています。感想などを見ると、大手M&A仲介会社の作業の進め方に対する不信感を抱いている人や、実際に痛い目に遭った人などが多いと思わざるをえません。それは多くの人が現状のM&Aビジネスに対して高い問題意識を持っている表れともいえるでしょう。

 ーーM&Aをしても売り手、買い手の双方がハッピーとはならないケースもあります。

 買収側からするとM&Aは「時間を買う戦略」です。売り上げ10億円の会社を買うとすれば、売り上げ規模をさらに10 億円増やすためにどの程度の時間、コストが必要かを検討。自社で10億円の増収を図るよりも手っ取り早いと考えれば、買収に踏み切るわけです。自らの経験では、こうした選択のできる企業はさほど多くない。収益増にM&Aを生かすことのできる企業は意外に限られているといえます。

 現実問題として、人材や営業といったセクションでは比較的、統合がスムーズに進みやすい。統合に伴う効果も出やすい面があります。いい意味で「フィロソフィー(哲学)」にこだわらない柔軟さがあるからです。医薬品卸の業界などでM&Aが活発化したのは、そうした背景があります。卸であれば、スケールメリットも享受しやすい。

 これに対して、メーカー同士のM&Aはちょっと難しいですね。生産現場にはこだわりや独自の「フィロソフィー」があり、統合作業も難航する傾向があります。

(聞き手:四季報オンライン編集部 松崎泰弘)

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