著名アナリストによる機関投資家向けレクを大公開!

投資指標の活用法で陥りがちな"誤解"とは?

島 大輔
2017年04月16日
Rawpixel / PIXTA(ピクスタ)
 機関投資家向けに行っているレクチャーの内容を個人投資家向けにわかりやすくまとめた、『No.1アナリストがプロに教えている株の講義』(東洋経済新報社刊)。著者である大和証券の吉野貴昌チーフクオンツアナリストに、個人投資家が誤解しがちな投資指標の有効な使い方や最近の機関投資家の注目点について聞いた。

ーー株価指標について、個人投資家が誤解していることがあると指摘されています。

 ほとんどの機関投資家が念頭においているのは、「簡単でわかりやすい指標には落とし穴がある」ということ。たとえば、配当利回りであれば、単純に高いからいいということはなく、配当が持続的にもらえるのか、株価下落のリスクはないのかといったチェックが必須だ。

 配当予想は確定したものではないので、業績が悪化すれば減配のリスクもある。「業績が悪いため配当が維持できないのではないか」との機関投資家の懸念から、株価が下落して見た目上は配当利回りが高くなっている銘柄もある。

 個人投資家は知名度の高い銘柄で配当が高いと「いい銘柄」と思ってしまいがちだが、必ずしもそうではない。

ーーROEの有効な活用法も紹介しています。

 一橋大学の伊藤邦雄教授らがまとめた「伊藤レポート」などからはじまった、株主還元やROE重視のトレンドは継続するだろう。3月からは、高ROEなどを選定基準とするJPX日経中小型指数もスタートした。この指数に連動する投信が増えてくることも予想されるため、中小型銘柄にもROE重視の流れがやってきそうだ。

高ROE銘柄をさらに厳選

 しかし、単純に足元のROEが高い銘柄ではなく、高いROEが将来も継続し、さらに上昇する銘柄の方がリターンは大きくなる。検証してみると、高ROE銘柄のなかでも、利益率が高い銘柄、あるいは高資産回転率の銘柄の方が、将来も高ROEが継続する傾向があるという結果になった。(編集注:ROEは「売上高純利益率×資産回転率×財務レバレッジ」に分解される)

 なお、利益率や資産回転率は、業種によって大きく異なる。その業種で上位10%に入る水準であれば、利益率や資産回転率が高いといえるだろう。(図表参照※利益率は営業利益率を使用)

ーー高ROE銘柄への投資はどのような環境でも有効なのでしょうか?

 それは市場環境にもよる。たとえば昨年1年間のパフォーマンスをみると、6月までは高ROEのように企業の収益性や成長性に注目した「クオリティ銘柄」のパフォーマンスがよかった。しかし、11月にトランプ米大統領が就任してからは、株式が割安であることに注目する「バリュー銘柄」に物色が向かった。

 そのため、クオリティ銘柄とバリュー銘柄に分散投資をすることがリスクの軽減につながる。今回の著書で検証した結果、クオリティ銘柄とバリュー銘柄を2対1の割合で組み合わせる投資法が有効だった。

 では、バリュー銘柄はどのように選べばいいのか。単純にPBRが低いというのもいいが、機関投資家が使うことが多いのは「PBRーROEモデル」と呼ばれる考え方だ。このモデルは、理論PBRを使った将来の割安株を発掘する手法だが、きちんとやろうとすると難しい面もある。

バリュー銘柄の見分け方

 著書の中では、個人投資家でも簡単にできるバリュー銘柄の見分け方を紹介している。まず、ROE8%を下回っている銘柄は価値を創造しているとはいえないが、解散価値であるPBR1倍を下回っているのであれば割安とみることができる。

 一方、ROEが8%以上の銘柄については、実際のPBRが「理論PBR」を下回っている場合に割安だと判断する。理論PBRとは、「ROEが8%を超えた場合に、資本コストを上回る利益が価値を創造する」という考え方によるもの。具体的には、ROEが8%から1%上昇するごとに、PBRが1倍から0.15倍ずつ上乗せされるという計算式[理論PBR=1+0.15×(今期予想ROEー8%)] で算出できる。

ーー直近ではリスクオフの状況にありますが、その場合に有効な投資戦略は?

 リスクオンの相場ではバリュー銘柄の「PBRーROEモデル」のパフォーマンスが良く、リスクオフ相場の場合はクオリティ銘柄である「高ROEで高利益率、高資産回転率の銘柄」の方がいい。相場の状況に応じて、このような銘柄選びを意識するといいだろう。ただ、相場のトレンドの変化を予想するのは難しいため、前に述べたようにクオリティ銘柄とバリュー銘柄に分散して投資をした方がいい。

 リスクオフムードがさらに強まるのであれば、キャッシュリッチ銘柄も選択肢となる。キャッシュリッチ銘柄は、総資産に対する現金同等物の割合で判断できる。業種によっても水準は違うが、20%以上というのが目安だ。

 キャッシュを多く保有しているということは、配当や自社株買いをする余力があるということ。自社株買いは株主総会の前の4月~5月に実施することが多いというデータもあるので、今の時期に注目してみてもいいだろう。

ーー機関投資家は今のタイミングでは、どのようなポイントに着目しているのでしょうか?

 相場の先行きについては、米国の金利次第という議論が多い。また、これから3月決算の本決算発表のシーズンでは、業績の伸びがいい銘柄に注目が集まる。決算発表の時期には、単純に会社計画で今期業績の増益率が高い銘柄の株価が上がりやすい。ただ、この上昇は短期間で止まってしまうことが多い。

 上昇が一巡した後は、過去の会社計画と実績の差を算出して、保守的な予想を発表する傾向がある銘柄に着目する流れになる。保守的傾向の銘柄を対象に、会社計画よりアナリストや四季報などの予想数値が高い銘柄を探したりする。

 ただ、この手法は売買のタイミングが難しいため、個人投資家の方であれば先ほど述べたようなやり方の方があっているかもしれない。

よしの・たかあき●大和証券チーフクオンツアナリスト。1965年埼玉県生まれ。山一証券などを経て、2002年に大和総研に入社。10年より現職。著書 に『No.1アナリストがいつも使っている投資指標の本当の見方』(日本経済新聞出版社)、『サザエさんと株価の関係』(新潮新書)など。

(聞き手:四季報オンライン編集部 島大輔)

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