米国株、最高値更新の裏で先送り問題が深刻化

12月に再びヤマ場!?

岡田 晃
2017年09月27日
(写真:Vichie81/PIXTA)

 本連載の前回で、「米債務上限引き上げ問題で9月危機到来!?」と書きましたが、見事に外れてしまいました。9月相場は、米債務上限問題のほか、FRBの資産縮小、ハリケーン被害など米国で懸念材料が目白押しだったことや北朝鮮情勢の緊迫化などで波乱が心配されていました。しかし、米国株は史上最高値更新が続き、日経平均も年初来高値を更新して2年1ヵ月ぶりの高値をつけています。債務上限問題でトランプ政権と議会が電撃的に合意したことが、株価上昇の大きな要因となりました。

 予想が良い方向に外れた点については喜ばしいことではあります。ただ米国の債務問題がこれですべて解決したわけではありません。今後まだ注意すべき3つのポイントがあります。

 第1は、12月に再びヤマ場がやってくるということです。9月の合意内容は、債務上限を12月8日までの3カ月間凍結する(つまり上限引き上げを認める)というものです。したがって、12月8日以降をどうするかについてはそれまでに決めなくてはならないのです。しかしこの段階で、共和・民主両党とトランプ政権が今回と同じよう早期に合意できるかどうかは未知数です。

 実は今回の合意に際して、トランプ政権と与党・共和党指導部の間でしこりを残しており、それが12月に向けた協議に尾を引く可能性があります。今回の合意に至る過程では当初、共和党は来年の中間選挙までの債務上限凍結との案を用意し、民主党は上限の3カ月凍結とハリケーン対策予算の編成を一体化した案を提示していました。

 この民主党案に対し共和党指導部は「ハリケーン対策を債務上限問題とからめて政争の具にするとは、ばかげている」と批判していました。ところがトランプ大統領は両党の議会幹部との会合で民主党案を採用したのです。これで共和党のメンツは丸つぶれ。すでに以前から大統領と共和党指導部との関係は悪化していると伝えられていましたが、これで両者の溝はさらに広がったと言われています。

 トランプ大統領が民主党案に乗ったのは、ハリケーン対策が緊急課題だったことや北朝鮮情勢など内外に懸案が山積しているという事情がありますが、議会対策として民主党に戦術的接近を図るねらいもあったようです。その後の報道によると、トランプ大統領は債務上限そのものを完全撤廃する検討に入ったということです。これも歳出拡大志向の強い民主党の賛成を得やすいという構図が浮かび上がってきます。しかし逆に財政規律を重んじる共和党は反発する可能性があります。特に共和党内の保守強硬派からは今後の債務上限引き上げ議論の中で歳出削減を求める声が強まるでしょう。

 第2は、2018年会計年度(2017年10月~2018年9月)の本予算の編成と議会審議です。前述の合意により債務上限の3カ月凍結とともにハリケーン対策を中心とする暫定予算も成立しましたが、本予算はまだです。これに関連して、トランプ大統領の目玉政策である税制改革が最大の焦点となります。

 トランプ大統領の案は①法人税率を現行の35%から15%に引き下げる②個人所得税の税率区分を現行の7段階から3段階に簡素化するとともに最高税率を39.6%から35%に引き下げるーーなどが柱です。しかしトランプ案では税収が5兆5000億ドル減少すると試算されており、税収減をカバーする財源の当てがないのが実情です。このため共和党は財政悪化を懸念して20%台前半とする考えを示しています。共和党の議会指導部は今月中に具体的な減税案をまとめるとしていますが、20%台なら大統領案より減税規模は縮小することになり、トランプ大統領との調整が難航するかもしれません。

 一方、民主党は「個人所得税改革は富裕層優遇」と批判しています。ところが最近、税制改革問題でもトランプ大統領と民主党が急接近しているフシがあります。9月中旬には、民主党の上院と下院のリーダーをホワイトハウスに招いて夕食会を開いたというニュースが報道されていました。日本のメディアはそれほど大きく扱っていませんでしたが、この会合では税制改革問題の他に、幼少期に親に連れられて不法入国した若者の在留を認めている制度(DACA)やメキシコ国境の壁建設問題などについても話し合ったとされています。

 「ディール(取引)」が得意なトランプ大統領のことですから、あるいは税制改革とこれらの問題で何らかの取引を模索しているのかもしれません。水面下で協議が進行しているのではないかとの見方もあります。しかしそうなると共和党との関係がますます悪化するリスクもあるわけで、今後のトランプ大統領のスタンスに変化が出るのか注意深くウォッチする必要がありそうです。

 第3は、債務上限問題や税制改革・2018年度予算がどのような形で決着するにしても、米の財政赤字と債務残高は増え続けるという点です。債務上限引き上げ法が成立した9月8日から債務残高は一気に増加し、従来の上限(約19兆8000億ドル)から現在は約20兆1800億ドルになっています。上限が引き上げられたのですから当然と言えば当然ですが、以前にも債務上限が棚上げになっていた今年3月15日までの期間と比べても現在の債務残高のほうがはるかに膨らんでいます。それだけ債務の増大傾向が強まっていると見ることができます。

 年度ごとの財政赤字も再び増える傾向にあります。2017年度(2016年10月~2017年9月)は8月までの累計で6740億ドルの赤字で、すでに前年度の赤字額(5847億ドル)を上回っており、年度全体でも前年度を上回りそうです。2018年度についても、税制改革がどのように決着するかは不明ではあるものの、何らかの減税が実施される可能性が高いことを考えれば、財政赤字はさらに膨らむ公算が大きいでしょう。

 米国の財政赤字をG7各国と比べても、2016年(暦年)の対GDP比(推計)は4.4%、2017年は4.1%で、最も高くなっています(IMF「世界経済見通し」)。特に欧州と比べるとドイツが黒字を維持しているのをはじめ、英国、フランス、さらにはイタリアでさえ財政赤字のGDP比を継続的に低下させており、米国は後れを取っていっています。米国も2017年は低下する推計となっていますが、これは今年4月時点のものなので、実際にはこの推計値より高い結果に終わる可能性があります。

 また債務残高の対GDP比は108.3%(2017年推計)で、G7では日本、イタリアに次いで3番目に高い水準に達しています。このように見てくると、米国の財政赤字と債務残高の削減は引き続き大きな課題であることに変わりありません。税制改革の議論もからんでトランプ政権がどのように取り組んでいくのか。民主党への接近と共和党との関係悪化など政権運営の行方も含めて、今後も注目していきましょう。

※岡田 晃
おかだ・あきら●経済評論家。日本経済新聞社に入社。産業部記者、編集委員などを経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長など歴任。人気番組「ワールドビジネスサテライト」のプロデューサー、コメンテーターも担当。現在は大阪経済大学客員教授。著書に「やさしい『経済ニュース』の読み方」(三笠書房刊)。ブログ「経済のここが面白い!」も執筆中。公式ウェブサイト「岡田晃の快刀乱麻」。
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