レアジョブ・加藤社長「英語学習の“自動車学校”を目指す」

新規公開企業のトップにナマの声を聞く連載第5弾

2014年08月18日

「IPO会社の社長に聞きた~い!」。インタビューならびに構成、原稿執筆を担当する角田佐哉香です。5回目に話を聞くのは6月27日に東証マザーズへ上場したレアジョブ (6096)の加藤智久社長です。東京・渋谷にある本社へお邪魔しました。

同社はマンツーマンのオンライン英会話「レアジョブ英会話」を展開。フィリピン在住の同国人を講師とし、インターネット通話ソフトの「Skype(スカイプ)」を使って英会話の遠隔レッスンを提供しています。

上場当日は買い物が膨らんで値がつかないまま、気配値を切り上げる展開。翌営業日の同月30日に3155円と公開価格の1170円の約2.7倍の水準で初値がつきました。7月4日の取引時間中には5420円まで値を上げましたが、その後は軟化。先週末15日には一時、2681円まで売られ、終値は2730円となっています。上値の重い展開が続く中、加藤社長は投資家にどのようなメッセージを発信するのでしょうか。

レアジョブは「スカイプ」を通じて英会話レッスンを手掛ける。設立は2007年。講師は約3000人のフィリピン人で、同国にある子会社が講師の選定、管理を行っている。サービスは1レッスン当たり129円からという低価格に特徴。累計無料登録ユーザー数は23万人を超え、有料登録ユーザーは約3万人を数える。09年には法人向けサービスも開始し、英語研修などを行っている。

「スカイプ」に出会い、「大きな波が来る」と直感

ーー「レアジョブ」とは、ユニークな社名ですね。

インターネットを通じて、講師にレアな(珍しい)環境下での仕事を提供していると思っています。オフィスに出勤せず、自宅から英語を教える。自分の持つ才能や実力のみが評価されるという面で、「レアなジョブ(仕事)」と言えます。

「日本人1000万人を英語が話せるようにする」というミッションも掲げています。会員である利用者には英語が話せるようになるだけでなく、世界へグローバル人材として羽ばたき、レアなジョブを手にしてもらいたい。そのような思いも込められています。

かとう・ともひさ●2005年に外資系の戦略コンサルティングファーム、モニター・グループ入社。2007年10月レアジョブ社長に就任、現在に至る。

ーー勤めていたコンサルティング会社を辞めて、オンライン英会話事業の会社を立ち上げました。

外資系の戦略コンサルティングファームに勤務していた2005年に(無料で音声通話やテレビ電話ができる)「スカイプ」と出会ったのが起業のきっかけになりました。今でこそ多くの人が当たり前のように利用していますが、当時は周囲に使っている人がいなかった。

実際に使用してみると、遠くにいる相手が目の前にいるかのような感覚で話すことができる。しかも、無料。「これこそがインターネットだ」と思いました。ビジネスではこれから盛り上がってくる波に乗ることができるかが大事。「スカイプ」を利用した市場は大きくなるはずと判断し、その波に乗ろうと決めました。

同時期に国立フィリピン大学の学生に会ったのも一つのきっかけです。同大学にはフィリピンで優秀な人たちが集まっていたけれども、彼らには仕事がなかった。こうした状況を目の当たりにし、「スカイプを使って雇用の機会をフィリピンへ届けたらすごいことが起きるんじゃないか」と思い立ちました。そう考えるとワクワクし、会社の仕事に集中できなくなって起業を決断しました。

新会社を始動させたときにはオンライン英会話の会社がいくつかありましたが、ビジネスとしては成立していなかった時代。通学制英会話で大手だったNOVAが破綻した年でもあり、逆風下でのスタートでした。

ーーフィリピン人の講師ばかりとなれば、人件費の面でのメリットもありそうですね。

「1レッスンにつき25分で129円」という低価格も物価の安いフィリピン発でレッスンを提供しているからこそ実現できる。(国民の平均的な所得水準を示す)名目の一人当たり国内総生産(GDP)で見ると、日本とフィリピンには10倍以上の開きがあります。当社の報酬は日本なら安くても、フィリピンで働く人たちからすれば結構高い水準です。

英会話ビジネスではいい講師を確保するのがとても重要。そのためにはある程度、講師にいい報酬を支払わなければなりませんが、日本ですべてやろうとすれば、レッスン料に反映させなければならない。それが通学制英会話スクールにとっては、ある種の限界です。

吉本と同じ「勝ち残りシステム」で講師を鍛える

ーー無料ユーザー登録者数は23万人と業界トップです。トップを走っている最大の要因は安い料金でしょうか。

もちろん、価格は大きな一つの要因です。創業時にオンライン英会話他社が採用していたシステムは、通学制英会話と同じように、生徒がまずチケットを購入してレッスンごとに消化していくというものでした。これだと、定額制に比べて割高になってしまう。

このため、当社は定額制にしました。たとえば、月に5800円払うと毎日、25分のレッスンが受けられる。これならば、レッスンごとに利用者の懐は痛まない。定額制ならばむしろ、たくさんレッスンを受けたほうが、元が取れる。そうしたシステムを採り入れることで、利用者の始めやすさや続けやすさが担保できたと思っています。

もう一つは、講師の質。国立フィリピン大学の学生や卒業生に限定したのが奏功しました。立ち上げるときに集まった人たちの質がものすごく重要なんです。

東京・渋谷にあるレアジョブの本社では40人あまりの社員が働く。

ーーでも、フィリピン人の働き方は日本人とかなり違うのではないですか。

仕事に対するスタンスや考え方という面では当然、カルチャーが異なると思います。フィリピンでは残業しないのが基本。日本人は組織を作らなくても互いに空気を読み合い、一つの目標に向かっていくが、フィリピンでは組織の上のレベルから下へきちんと落としていかないと、自分が何をしたらいいのかわからないといったところがあります。

半面、女性進出は日本に比べて盛んだし、ワークライフバランスに対する考え方もしっかりしています。

フィリピンに拠点を構える日系企業が決まって驚くのは、当社のフィリピンオフィスに常駐している日本人スタッフがいないこと。「よくそれでフィリピン人社員が会社に出てくるね」などと言われます。

これも最初に地元でトップの大学から優秀な講師を採用し、そこからさらによりすぐりのスタッフを採用したからこそできたことです。「不満足率を何パーセントにしよう」などといった大まかな数値目標を立てれば、あとはどうすればいいのか自分たちで考え、動いてくれる。

新規のビジネスではマネジメント側の姿勢やその仕組みも成功のカギですが、もっとも大事なのはマネジメントされる側。まずは優秀な人材を集めることです。ビジネス書『ビジョナリー・カンパニー』の中にある「誰をバスに乗せるか」ということをきっちりやったのが大きかったと思っています。

ーーただ、現在の講師の数は約3000人と業界一の規模です。これだけ多いと、質の面で高いサービスレベルを維持していくのは難しいのではないですか。

優秀な者だけが残る仕組みになっています。講師への報酬はレッスンの予約が入った際に支払う形です。そうすることで、いい講師はまた予約してもらおうと頑張る。逆に悪い講師には予約が入らず、おカネを稼げる場所ではない、と判断して自ら去っていきます。

オフィスに講師を集めてやるとそうはいかない。どうしても場所や時間シフトの指定となり、予約が入らない時間帯にも報酬が発生してしまう。働いている人からすれば、「もらえる金額がさほど変わらなければ、そこまで頑張る必要はないよね」という「ディスインセンティブ」につながる可能性があります。

取材に来てくれたお笑い芸人の今田耕司さんが「吉本興業の仕組みと同じです」と話していました。吉本の場合はマネージャーが正社員であるのに対して、芸人さんはフリーランス。「勝ち残りの仕組み」という点で非常に共通しているということです。

レアジョブのサービス利用者は20~30歳代が中心。下は10歳代から上は80歳代まで幅広い。男女比は、男性が6割で女性は4割という比率だ。オンライン英会話の市場自体は急成長しているが、最近は「50%キャンペーン」と称して「1レッスン当たり75円(25分間)」といった価格を打ち出す会社も現れるなど、業界内の競争は激しさを増している。

英会話ビジネスはスタバのサービスに似ている

ーーオンライン英会話の市場では最近、価格競争が激化しています。

このビジネスで最も大事なのは英語に対する、やる気を引き出せるかどうかです。利用者にとっても1000円や2000円安いかどうかといったことではなくむしろ、「講師は自分が話したい相手なのか」「自分の英語力は伸びているか」といったことのほうがより重要。そうした観点に立ってしっかりとサービスを提供し続けたいと考えています。

英語を学ぶのは一人でもできるが、当社のサービスを使ったほうが勉強を続けられるという気になってもらう。「気持ちを動かす」という点では、スターバックスに似ているのではないでしょうか。

エスプレッソマシンとコーヒー豆を買えば、スタバテイストのコーヒーを作るのはさほど難しくないでしょう。でも、スタバへ行って気分がリフレッシュするような感覚を来店客に抱いてもらうには、ミッションやビジョンを整理し、それに共感するスタッフを集めて内装、ドリンク、オペレーションなどすべてに反映させるのが肝心なんです。

オンライン英会話も同じ。低価格や広告宣伝などを通じて競争を挑まれるのは結構ですが、利用者の気持ちを引き出し続ける、そこにフォーカスしていきたい。スタバと同様、ミッションやビジョンを整理し、それをスタッフや講師に伝えて細部のオペレーションに反映させるのが差別化の最大のポイントです。

ーー市場規模はオンライン英会話に比べると、通学制のほうがまだまだ大きいですね。

講師の専門分野を深めることで、通学制にはできない価値の提供をしたいと考えています。通学制の場合にはさまざまなタイプの生徒がいます。そこで講師に求められるのは専門性ではなく、どんな人にも対応できるスキルです。

その点、当社にはさまざまなバックグラウンドを持つ講師がいます。利用者が医師であれば、バイオ専門の講師と話したり、論文を添削してもらうこともできる。経営について話したければ、経営学修士(MBA)を有する講師も用意できます。マンツーマンのシステムを活かして講師の専門領域をより、はっきりさせることで、「勝ち残りの仕組み」を進化させたい。

オンライン英会話の世界でも、「フリーミアム(注:基本サービスを無料で提供し、高度な機能などについて課金する仕組みのビジネスモデル)」の流れが進んでいます。書籍のオンライン化が進む中、英語のコンテンツも今後、限りなくゼロ円に近づいていくのではないでしょうか。

当社も無料コンテンツを提供して利用者のIDを獲得し、顧客データを基にした有料サービスで利用者の一定割合を通学制からオンラインへ移行させて収益を上げる、というモデルを作ることができるのではないかと考えています。

もう一つは、オンラインとオフラインを組み合わせたサービスを作ることです。通学制英会話の受講者はあまりオンライン英会話へ流れていません。おそらく、オンラインが100%のサービスには抵抗があるのでしょう。かといって、すべて対面型のレッスンを受けたいと思っているわけでもないでしょう。

これまで、約300の企業に対し英語研修を実施。その中で、単に英会話をやりたいという以上に、自分の英語力がどれだけ伸びたかを知りたいといったニーズの強いことがわかりました。

そうした人たちを対象に、英語を試す機会を提供すると大変喜んでもらえます。日本で英語を勉強する人のほとんどは、仕事などで使う機会がありません。だから、フィリピンのオフィスへ案内し、現地のスタッフと交流するような試みなどを行うと、とてもいい刺激になるようです。

英語を使う機会や、英語の進め方に対するカウンセリングの場などはオフラインでやったほうが通学制英会話の受講者は取り込みやすい。ここでサービス全体の10%を提供し、残りの90%については現在のサービスや、これから「フリーミアム化」の中で提供する独習コンテンツといったオンラインのサービスに充てる。こうした形が理想です。

足元の業績は堅調に推移している。今15年3月期売上高は前期比約31%増の22億円、営業利益は同39%増の1.8億円を見込む。個人ユーザーの新規契約件数の着実増などが背景だ。ただ、13年3月期には同0.6億円の営業赤字を計上した経緯がある。外部からの不正アクセスによる業務の一時停止での売上減、フィリピンの通貨ペソに対する円安進行に伴う講師報酬費用増などが響いた格好だ。

目指すは英語学習の「自動車学校」

ーースカイプを介してレッスンを行っていますが、インフラ整備が十分でないフィリピンでは停電や通信回線の障害もあると思います。

停電や通信障害が起きにくい場所、起きにくい仕組みで対応するといった策は当然取っています。それでもフィリピンではどうしてもトラブルは起きてしまう。その場合は、代替レッスンを用意したり、ほかの講師を手配したりするなどして対処しています。ほかの講師を用意する際には、利用者が以前受講していた講師や、属性が似た講師をできるだけ手配するようにしています。

ーー12年には外部からの不正アクセスで業務を一時停止しました。

サーバーの基本ソフト(OS)の脆弱性を突かれ、外部からの侵入を受けました。顧客情報が漏れた形跡はありませんが、その可能性は否定できず、サービスをゼロから作り直しました。

これに伴い、営業を1カ月弱停止。サービス再開後は問題なくやっています。ただ、会社が急拡大を遂げてきた中で、技術的な体制がしっかりと構築されていなかったという反省はあります。このため、当時からエンジニア数を倍増させるなどして、セキュリティのレベル向上に努めています。

ーー配当の開始時期について考えを聞かせて下さい。

株主還元で、配当は非常に重要な要素だと思っています。ただ、当社の現在の事業規模を考えると、もっと大きくなってからかなと……。

当社が目指すのは、英語学習における「自動車学校」のような存在です。自動車を運転できるようになりたいと思えば、学校へ通ってそのプロセスをこなせば大抵の人はできるようになる。それと同じで、レアジョブのレッスンを受ければ、必ず英語を話せるようになるという環境を作りたい。さらに、その海外展開にもある程度、メドがつかないかぎり、配当は早いでしょう。ただ、その過程では事業規模がもっと大きくなるはず。まずは株価での還元を重視したい。

ーー自動車学校のような存在になるのはいつ頃ですか。

5年以内にある程度の形を作り終えていなければならないでしょう。そのために、現在いろいろなハードルを徐々に下げている段階です。初級者が当社のサービスを使い始めるハードル、IT機器のハードル、やる気を持続させるハードルなど……。

たとえ自分たちができなくても、今後30年ないし40年もすれば、誰かがそういった新しい環境を作り上げるでしょう。それでも、なぜあえて取り組むのか。その時期をもっと早めたい、歴史を早めたいと思っているからです。


取材後記

大学時代の英語の授業。まわりの帰国子女の学生たちがこなれたジェスチャー付きで英語をスラスラ話す雰囲気に飲まれ、一言も発することなく終わってしまったのをきっかけに、英会話への苦手意識が生まれました。

その後も苦手意識は払拭できず、英会話スクールに通い始めては挫折する経験を繰り返してきました。何度も挫折感を味わった最大の理由は、英会話の上達が実感しづらく、それを確認する機会もあまりなかったためだと自己分析しています。

聞き手・執筆
角田佐哉香(かくだ・さやか)●和歌山県和歌山市出身、慶応義塾大経済学部卒。富山テレビ放送アナウンサーを経て、「TBSニュースバード」 キャスター。会社四季報オンラインの人気連載コラム「兜町キャスターここだけの話」も執筆中。

周囲を見渡すと、仕事で必要だからと忙しい合間を縫って英会話スクールに通う人が少なくありません。「通えば、必ず英語を話せるようになる」という「自動車学校」のようなスクールが誕生すれば、生徒が殺到するのは間違いないでしょう。

しかし、英語学習市場の中で、オンライン英会話の占める割合はまだ低いのが現状。その割合を上げていく余地は大きいともいえますが、今のところ、通学制英会話の受講者がオンラインへ移行するケースはわずかだということです。

インターネットがあれば、いつでもどこでもレッスンが受けられるという手軽さに加え、レッスン費も破格の値段であるがゆえにむしろ、毎日継続して学習するには強い意志が必要になります。小学生の頃、毎月送られてくる通信教育の教材をインテリアのように積み上げていた私には、なかなかハードルが高いかもしれません。

小学校での英語教育が本格的にスタート。2020年には東京オリンピックの開催も控えています。英語学習の需要は今後、ますます高まるとみられますが、同時に業界内での競争が激化していくのは必至です。

いかにしてオンライン英会話市場へ学習者を取り込むのか。 そして、無料コンテンツが増える中、顧客情報を武器に、一人ひとりのニーズにかなったオーダーメイド型の有料サービスをどこまで伸ばせるか。そのカギは、実は、とてもシンプルなことかもしれません。コミュニケーションの中で感じる「英語って楽しい」、言いたいことが伝わって「嬉しい」という気持ちこそが、「学び続けたい」というやる気の源泉であるように思います。

ただ、シンプルなことはかえって難しい。利用者の琴線に触れるサービスをどのような形で具現化するのか。その答えを探し出すのは簡単でない気もします。

(撮影:今井康一)

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