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日本企業の海外M&A、買収額が初の10兆円超え

守りから攻めの経営へ転換

岡田 晃
2015年11月19日
JTは米レイノルズ・アメリカンのブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット」の米国外事業を買収(撮影:尾形文繁)

 日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が急増しています。M&A助言・支援大手のレコフが9日までに集計したところによると、2015年はM&A金額(円ベース)が初めて10兆円を上回り、過去最高を記録しました。上場企業の手元資金が過去最高水準となり、これまで守りの経営を強いられてきた日本企業が攻めの経営に転じてきたことを示しています。

 レコフの発表によると、2015年の日本企業による海外企業へのM&Aは9日までで474件、10兆0044億円となり、前年同期の455件、4兆9120億円を上回りました。年間の金額ではこれまで06年の7兆5006億円が最高でしたが、すでにこれを大きく上回っています。

 日本企業による海外M&Aは06年から増え始めた後、08年のリーマンショックの影響でいったんは停滞しましたが、10年ごろからは円高を背景に再び増加に転じていました。その後は円安となっているので本来なら逆風ですが、それにもかかわらずM&Aが加速していることは、日本企業の買収意欲の強さを表しています。

 今年に入ってからのM&A増には、いくつかの特徴や背景があります。第1は、生保・損保の大手が軒並み海外でのM&Aに乗り出していることです。今年の海外M&Aの金額トップ10には、東京海上ホールディングス (8766)、三井住友海上火災保険、明治安田生命保険、住友生命保険の4社、続いてトップ20にも日本生命保険(12位、2040億円)、損保ジャパン日本興亜ホールディングス(8630、20位、1100億円)が入っています。

 生損保業界では昨年も第一生命保険 (8750)が米生保会社を5750億円で買収を発表するなど、昨年から今年にかけて海外M&Aラッシュとなっています。そこには、国内の生損保市場が人口減少や若者のクルマ離れなどで大きな伸びが期待できないため、海外市場に打って出ようとの狙いがあります。

 特に米国の生損保会社を買収する例が目立ちます。これは米国が世界最大の保険市場で今後も人口増加や経済成長が見込めることから有力な買収先となっているのです。

内需型企業のM&Aが増加

 第2は、生損保も含め、内需型企業のM&Aが増えていることです。金額3位の日本郵政 (6178)傘下の日本郵便、6位の日本たばこ産業 (JT、2914)がその代表例で、近鉄エクスプレス (9375)のシンガポール物流会社の買収(1523億円)も16位に入っています。このほか、ここ数年は食品、小売りなどの大手企業が続々と海外企業のM&Aを手掛けたり、提携・進出したりする動きが目立っています。

 従来は海外M&Aというと、輸出型のグローバル企業中心でしたが、国内市場の少子高齢化と人口減少を背景に、最近は内需型企業も海外市場を重視し始めており、M&Aはその重要な戦略手段となっているのです。

 第3の特徴は買収規模の大型化です。前出の東京海上による米保険会社の買収金額(9413億円)は日本企業による海外M&Aでは歴代8位の規模、明治安田生命の米生保買収(6284億円)は日本の生保による海外M&Aで過去最大、三井住友海上の英保険会社の買収(6420億円)は同社の海外M&Aで最大となるなど、いずれも記録づくめです。このほかキヤノン (7751)日立製作所 (6501)なども自身としては最大規模のM&Aとなっています。こうした傾向は今後、ますます強まるでしょう。

 海外M&Aだけでなく、国内企業同士などM&A全体でも増加が顕著です。同じくレコフのデータによると、15年は9日までで13兆8670億円に達しており、これも1~11月としては過去最高を更新しています。件数は2043件で、こちらは過去最高には届いていませんが、前年同期比では4.7%増加しています。

 最近では、石油業界で出光興産 (5019)昭和シェル石油 (5002)が合併で基本合意したのに続き、JXホールディングス (5020)東燃ゼネラル石油 (5012)の経営統合交渉が報道されたばかりです。小売業界でもファミリーマート (8028)ユニーグループ・ホールディングス (8270)の経営統合など、M&Aのニュースがない日がないといっても大げさではないほどです。

 これら国内企業同士のM&Aと海外M&Aはともに、少子高齢化や人口減少による国内市場の縮小という共通の背景があります。それを乗り切るために規模拡大や経営効率化を図るのがM&Aの狙いです。M&Aを可能にしているのは業績の好転と手元資金の増加です。

石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油は合併で基本合意(撮影:大澤誠)

 そのことは決して受け身の対応ではなく、企業が積極的な経営姿勢に転じている証しと見たほうがいいでしょう。M&Aが直接には株式市場を活性化させ、ひいては日本経済全体の競争力の回復をもたらすことが期待されます。   

 M&Aのデータは、日本企業と日本経済の活力を反映するデータとして見ることができる重要なものです。M&Aのデータを発表しているレコフはM&A案件の提案や助言、支援などを行っており、日本で数少ない独立系のM&A専門会社です。

 その業務を通じて得た情報の信頼性には定評があります。同社は毎月のM&A件数や金額、その内訳、主な事例などを詳細に発表していますので、チェックするといいでしょう。

M&Aで巨大なビール会社が誕生

イタリア・フィンメカニカ社の信号・車両部門買収を発表する日立製作所の中西宏明CEO(写真左、撮影:尾形文繁)

 ただ、日本企業のM&Aには課題もあります。過去のM&Aでは買収効果を十分に発揮することができないままで、買収後の経営が思わしくないといった企業が少なくありません。

 せっかく買収した企業を何年か経ってから売却せざるをえなくなったケースもあります。M&Aが成功したかどうかは、買収してから何年か経ってみないと答えが出ないことが多くあります。つまり買収後の経営が勝負なのです。

 その勝負どころの一つが海外企業との競争にいかにして打ち勝つかという点です。実は、M&Aは世界的に活発化しています。最近では、「バドワイザー」で有名なビール世界最大手、ベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブが世界第2位の英国のSABミラーを買収するとのニュースがありました。その買収金額はなんと13兆円。日本のビール大手も積極的に海外企業のM&Aに乗り出していますが、足元にも及ばないほどの規模です。

 このように世界にはとんでもない巨大企業がいくつもあります。日本企業が海外M&Aなどでグローバル展開することは、こうした巨大企業と正面から戦うことでもあるのです。経営姿勢を積極化させている日本企業がM&Aをテコに国際競争力を取り戻せるかどうか、これからが正念場といえるでしょう。

※岡田 晃
おかだ・あきら●経済評論家。日本経済新聞に入社。産業部記者、編集委員などを経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長など歴任。人気番組「ワールドビジネスサテライト」のプロデューサー、コメンテーターも担当。現在は大阪経済大学客員教授。著書に「やさしい『経済ニュース』の読み方」(三笠書房刊)。
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